【日本のテレワーク導入に関する法的留意点】

 厚生労働省では、テレワークの形態として、①在宅勤務(労働者の自宅で業務を行う)、②サテライトオフィス勤務(労働者の属するメインのオフィス以外に設けられたオフィスを利用する)、③モバイル勤務(ノートパソコンや携帯電話等を活用して臨機応変に選択した場所で業務を行う)、と分類し、労働基準法上の労働者については、テレワークを行う場合においても、労働基準関係法令が適用されます。また、厚生労働省は、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を策定しており、同ガイドラインがテレワーク導入における労働基準関係法令を適用する際の法的留意点を説明しています。

(1) 労働条件の明示

使用者は、労働契約を締結する際、労働者に対し、賃金や労働時間のほかに、就業の場所に関する事項等を明示しなければなりません(労働基準法第15条第1項、労働基準法施行規則第5条第1項第1の3号)。労働者に対し、就労の開始時にテレワークを行わせることとする場合には、就業の場所としてテレワークを行う場所を明示しなければなりません。また、労働契約締結後にテレワークを導入する場合には、労働条件の変更となります。労働条件を変更する場合は、テレワークを導入する際の労働条件を明示し、使用者と労働者の間での個別の合意が必要です(労働契約法第8条)。

なお、使用者は、個別の合意によらなくとも、就業規則に就業の場所を定めており、かつテレワーク導入に関して労働条件である就業の場所が変更される場合には、就業規則の変更により労働条件を変更することが可能です。就業規則を変更する場合、使用者は変更した就業規則を作成して所轄の労働基準監督署長に届け出て(労働基準法第89条第1号)、かつ書面の交付やパソコン等の電子機器の設置による公開などの方法(労働基準法施行規則第52条の2)により就業規則を周知させなければならなりません(労働基準法第106条第1項)。

もっとも、就業規則に就業の場所として「会社、その他会社が指定する場所」というように柔軟に定めていた場合は、テレワークの導入により労働条件が変更されたとはいえないので、就業の場所については個別の合意及び就業規則の変更は不要となります(テレワーク導入に伴い就業の場所以外にも労働条件に変更点がある場合は、個別合意や就業規則の変更が必要となります)。

(2) 労働時間制度

使用者は、適切な労務管理のために、労働時間の管理を行う責任があります。テレワークの導入に伴い始業や終業の時刻の変更が行われることがある場合、労働条件の変更となるため使用者は労働者に変更後の始終業時刻を明示し、両者の間で合意することが必要です。始終業時刻について、就業規則で定めている使用者は、当該変更について就業規則を作成して所轄の労働基準監督署長へ届出て、労働者に変更後の就業規則を周知させなければなりません。

① 中抜け時間

一定程度労働者が業務から離れる中抜け時間について、使用者が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れ、当該時間を自由に利用することが保障されている場合、(i) 休憩時間として扱い、労働者のニーズに応じ、始業時間を繰り上げる又は終業時間を繰り下げる、(ii) 時間単位の年次有給休暇(5日以内に限る)として扱うこと、が可能です。時間単位の年次有給休暇(5日以内に限る)を与える場合には、労使協定の締結が必要です(労働基準法第39条第4項)。

② 通勤時間や出張旅行中の移動時間中のテレワーク

使用者の明示又は黙示の指揮命令下で行われるものについては労働時間に該当します。

③ 勤務時間の一部でテレワークを行う際の移動時間

使用者が労働者に対し業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じており、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は、労働時間に該当します。

④ みなし労働時間制

労働時間の把握ができない場合、みなし労働時間制(労働基準法第38条の2)も利用できますが、以下の要件を満たす必要があります。

・ テレワークが自宅等会社以外の場所において行われること

・ パソコンが使用者の指示で常時通信可能な状態となっていないこと

・ 作業が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと 

 その他、テレワークにおけるフレックスタイム制の活用や、裁量労働制の対象となる労働者のテレワークも可能ですが、使用者は各労働者の労働時間や勤務状況を把握し、適正な労働時間管理を行う責務を有します。

⑤ 休憩時間の取り扱い

労働基準法第34条第2項では、原則として休憩時間を労働者に一斉に付与することを規定していますが、テレワークを行う労働者について、労使協定により、一斉付与の原則を適用除外とすることが可能です(労働基準法第34条第2項但書)。また、労使の合意により、これ以外の休憩時間を任意に設定することも可能です(労働契約法第8条)。

⑥ 時間外・休日労働の労働時間管理について

テレワークにおける時間外労働又は休日出勤は、会社における勤務と同様、時間外労働・休日出勤に関する協定(36協定)の締結、届出(労働基準法第36条第1項)及び割増賃金の支払いが必要です(労働基準法第37条第1項)。また、深夜に労働した場合は、深夜労働にかかる割増賃金の支払いが必要です(労働基準法第37条第4項)。

(3) 賃金制度、社内教育の取扱い 

 賃金制度について、会社で勤務する労働者と異なる制度を用いるのであれば、その取扱い内容について就業規則を作成又は変更し、届け出なければなりません(労働基準法第89条第2号)。また、テレワークを行う労働者に社内教育や研修制度に関する定めをする場合は、就業規則に規定しなければなりません(労働基準法第89条第7号)。

(4) テレワークで要する通信費・水道光熱費などの費用負担

労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合は、その事項を就業規則に定めなければなりません(労働基準法第89条第5号)。情報通信機器の費用、通信回線費用、文具や部品等の費用、水道光熱費が考えられます。

(5) 交通費・手当の扱い

交通費や手当について、支給要件が不明確である場合は、テレワークの対象者についても、会社で勤務する労働者と同様に扱う義務(交通費の支給等)を負う可能性があるため、就業規則等で支給要件を明確にする必要があります(労働基準法第89条10号)。

(6) 安全衛生関係法令の適用

労働安全衛生法等の関係法令等に基づき、過重労働対策やメンタルヘルス対策を含む健康確保のための措置を講じる必要があります。具体的には、以下のような措置をとり、労働者の健康確保を図ることが重要です。

・ 必要な健康診断とその結果等を受けた措置(労働安全衛生法第66条から第66条の7まで)

・ 長時間労働者に対する医師による面接指導とその結果等を受けた措置(同法第66条の8及び第66条の9)及び面接指導の適切な実施のための時間外

・休日労働時間の算定と産業医への情報提供(労働安全衛生規則第52条の2)

・ ストレスチェックとその結果等を受けた措置(労働安全衛生法第66条の10)

(7) 自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備

自宅等、テレワークを行う作業場について、部屋の明るさや温度や湿度等、適切な作業環境の確保を図る必要があります。「事務所衛生基準規則」、「労働安全衛生規則」及び「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」等に衛生基準が規定されています。

(😎 労働災害の補償に関する留意点

テレワークを行う労働者については、会社における勤務と同様、労働基準法に基づき、使用者が労働災害に対する補償責任を負う(労働基準法第75条)ことから、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じたテレワークにおける災害は、業務上の災害として労災保険給付の対象となります(労働者災害補償保険法第3条)。ただし、私的行為等業務以外が原因であるものについては、業務上の災害とは認められません(労働者災害補償保険法第7条参照)。また、通勤災害とは、労働者が就業に関し、住居と就業の場所の往復等を合理的な経路及び方法で行うこと等によって被った負傷等をいい(労働者災害補償保険法第7条第2項)、サテライトオフィス勤務やモバイル勤務では、通勤災害が認められる場合も考えられます。

(9) 情報セキュリティに関する留意点

会社の外で仕事を行う際には、端末の紛失・盗難、重要情報の盗聴、不正アクセス、外部サービスの利用等、その形態に応じて様々なリスクがあるため、それらリスクについての対策を講じる必要があります。

(10) 参考資料

テレワークモデル就業規則(厚生労働省)労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(厚生労働省)テレワークセキュリティガイドライン第4版(総務省)作業環境整備のイメージ図(厚生労働省)