【日本の雇用契約及び就業規則の概要と法的留意点】

(1) 労働契約に関する主な法律

① 労働基準法: 労働関係を規律する最も基本的な法律です。罰則を設けて最低労働基準を定めることにより当事者に合理的な行動による労働条件の決定又は変更を促すことを目的としています。

② 民法: 「雇用契約」として、「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約すること」と定義されています(民法第623条)。

③ 労働契約法: 労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とし、平成20年に施行されました。「労働契約」は、「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意すること」と規定されています(労働契約法第6条)。民法で規定されている「雇用契約」と違い、使用者の指揮命令のもとに行われる労務を前提としています。一般的に、使用者と労働者が結ぶ契約については、多くの場合、「労働契約」を指すため、本項では、「労働契約」について述べます。

(2) 労働契約の基本原則

労働契約は、労働契約法に基づく使用者と労働者のルールで、以下の「労働契約5原則」がベースとなっています(労働契約法第3条)。

① 労働契約は、労使対等の立場における合意に基づいて締結・変更する(同条第1項)。

② 労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態によって均衡を考慮しつつ締結し、又は変更する(同条第2項)。

③ 労働契約は、労働者及び使用者が、仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更する(同条第3項)。

④ 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない(同条第4項)。

⑤ 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用してはならない(同条第5項)。

(3) 労働契約の締結

① 労働条件の明示

労働契約を結ぶときには、使用者が労働者に労働条件を明示することが必要です(労働基準法第15条第1項)。労働契約は、労使が合意すれば口約束でも成立しますが、特に重要な項目については、書面を交付するか電子メールの送信等の方法により明示する必要があると定められております(労働基準法第15条第1項、労働基準法施行規則第5条、同条第4項)。労働契約法においても、労働者と使用者はできる限り書面で確認する必要があると規定しています(労働契約法第4条第2項)。

なお、労働者と使用者が労働契約を結ぶ場合に、使用者が、合理的な内容の就業規則を、労働者に周知させていた場合には、就業規則で定める労働条件が労働者の労働条件となります(労働契約法第7条)。つまり、適法な就業規則を定めて労働者に書面の交付等により周知していた場合は、労働条件を、別途文書等で明示する必要はありません。

労働条件の絶対的記載事項(労働基準法施行規則第5条第1項)

(a) 契約期間 (同項第1号)(*1)

(b) 業務内容(場所、仕事の内容)(同項第1号の3)

(c) 勤務時間及び休日(始業時間及び終業時間、残業の有無、休憩時間、休日・休暇、勤務のシフト制等)(同項第2号)

(d) 賃金の支払い(賃金の決定、計算と支払いの方法、締日と支払いの時期)(同項第3号)

(e) 退職(解雇の事由を含む)(*2)(同項第4号)

*1 契約期間

一般的に、正社員は長期雇用を前提として特に期間を定めず、アルバイトやパートタイムなどは有期労働契約として期間の定めをもうけることが多いです。労働者に契約期間を明示せずに雇用した場合は、「期間の定めなし」と解されるため、一定の期間が過ぎたあとに「会社都合により契約終了」とはできないため注意が必要です。

契約期間に定めのある労働契約の期間は、原則として上限は3年です。なお、専門的な知識等を有する労働者、満60歳以上の労働者との労働契約は、上限が5年とされています(労働基準法14条第1項)。また、期間の定めがある契約の更新について、更新があるかどうか、更新する場合の基準等を明示する必要があります。更新の条件を満たしているにも関わらず契約更新しない場合は、トラブルになるケースもありますので、明確な基準を明示することが肝要です。

*2 退職(解雇の事由を含む)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法第16条)。契約期間に定めのある労働者については、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間の満了前に労働者を解雇することができません(労働契約法17条第1項)。

上記(a)から(e)の項目に加え、以下に該当する場合は、関連する事項を定めなければなりません(労働基準法施行規則第5条)。

(a) 退職手当の定め(退職手当を除く)をする場合は、適用範囲、計算方法、支払方法や時期等(同項第4号の2)

(b) 臨時の賃金等及び最低賃金額を定める場合(同項第5号)

(c) 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合(同項第6号)

(d) 安全及び衛生に関する定めをする場合(同項第7号)

(e) 職業訓練に関する定めをする場合(同項第8号)

(f) 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する場合(同項第9号)

(g) 表彰及び制裁の定めをする場合(同項第10号)

(h) 休職に関する事項(同項第11号)

② 労働契約の変更

労働者と使用者が合意すれば、労働契約を変更することができますが(労働契約法第8条)、合意であっても、就業規則に定める労働条件よりも下回ることはできません(労働契約法第12条)。

③ 労働契約の禁止事項

労働契約を結ぶときに、会社が契約に含めてはならない事項も定められています。

• 労働者が労働契約に違反した場合に違約金を支払わせることや、その額をあらかじめ決めておくこと(労働基準法第16条)。例えば、「1年未満で会社を退職した場合は罰金10万円」「会社の備品を壊したら1万円」などと決めてはなりません。これは事前に賠償額について定めておくことを禁止するもので、労働者の故意又は過失で、会社に損害を与えた場合の損害賠償請求を制限するものではありません。

• 労働することを条件として労働者にお金を前貸しし、毎月の給料から天引きする形で返済させること(労働基準法第17条)。労働者が会社からの借金のために、労働を余儀なくされることを防止するためです。

• 労働者に強制的に会社にお金を積み立てさせること(労働基準法第18条第1項)。ただし、労働組合又は労働組合がないときは労働者の過半数代表との書面による協定及び行政官庁への届け出のほか、一定の要件を満たした場合は、認められています(同条第2項)。

④ 採用内定について

採用内定により解約留保権付の労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定取消したる解約権の行使についても解雇と同様に解雇権濫用法理(労働契約法第16条)が適用されています。従って、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上認められない場合は、採用内定取消しは無効となります(労働契約法第16条)。内定取消しが認められる場合には、通常の解雇と同様、解雇の予告(労働基準法第20条)、退職時等の証明(労働基準法第22条)などの規定が適用されます。

(4) 就業規則

常時10人以上の労働者を雇用している会社は必ず就業規則を作成し、労働基準監督署長に届け出なければなりません(労働基準法第89条)。就業規則の内容は法令や労働協約に反してはなりません(労働基準法第92条)。また、就業規則の作成・変更をする際には必ず労働者側(労働組合、又は組合がなければ労働者の過半数代表)の意見を聴かなければならないと定められています(労働基準法第90条第1項)。

就業規則に必ず記載しなければならない事項(労働基準法第89条)

(a) 始業および終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務の場合の就業時転換に関する事項(同条第1号)

(b) 賃金に関する事項(同条第2号)

(c) 退職に関する事項(同条第3号)

上記(a)~(c)に加え、以下に該当する場合は、関連事項を定めなければなりません(労働基準法第89条)。

(a) 退職手当の定め(退職手当を除く)をする場合は、適用範囲、計算方法、支払方法や時期等(同条第3号の2)

(b) 臨時の賃金等及び最低賃金額を定める場合(同条第4号)

(c) 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合(同条第5号)

(d) 安全及び衛生に関する定めをする場合(同条第6号)

(e) 職業訓練に関する定めをする場合(同条第7号)

(f) 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する場合(同条第8号)

(g) 表彰及び制裁の定めをする場合(同条第9号)

(h) その他、当該事業場の労働者の全てに適用される定めをする場合(同条第10号)

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