【マレーシアの独占禁止法(競争法)の概要 】

マレーシアでは、競争法(Competition Act 2010)が2012年1月に施行され、また同法の施行機関である競争委員会について規定した競争委員会法(Competition Commission Act 2010)が2011年1月に施行されています。同委員会は、競争法の考え方を明らかにするためにガイドラインを制定しています。

(1) 反競争的合意

競争法4条は、市場での競争を著しく妨げ、制限し又は歪曲する目的若しくは効果がある限り、企業間の水平的又は垂直的合意は禁止されると定めています。

1 水平的合意

 競争法は、以下の目的を有する水平的合意は、市場での競争を著しく妨げ、制限し又は歪曲する目的若しくは効果があるものとみなしています。

  1. 間接又は直接に売買価格その他取引条件を拘束すること
  2. 市場又は供給元を分け合うこと
  3. 生産、市場への販売経路、市場へのアクセス、技術、技術的発展、投資への制限又は支配
  4. 入札談合行為を行うこと

2 垂直的合意

垂直的な合意については、水平的合意と異なり、みなし規定は置かれていません。

 もっとも、競争委員会作成のガイドラインは、反競争的効果が問題となり得る行為として以下の行為を挙げています。

  1. 再販価格の維持
  2. 供給品の全て又はほとんどを特定の供給者から購入しなければならない旨を定める合意
  3. 地理的範囲における独占販売を定める合意
  4. 顧客の独占的割当を定める合意
  5. 小売販売網の利用にかかる費用の前払い

3 免責

ある合意が反競争的な合意にあたるとしても、当該合意が以下の要件を充足する場合には、合意の当事者は免責を受けることができます。

  1. 当該合意が重大かつ確認可能な技術上、効率上又は社会的な便益を直接的に引き起こすこと
  2. 当該合意が競争を妨げ制限し又は歪曲する効果を有しない限り当該合意の当事者は当該便益を合理的に提供することができないこと
  3. 競争への有害な影響が便益と均衡していること
  4. 当該合意商品及びサービスに関する重要な部分についての競争を完全には排除するものではないこと

(2) 支配的地位の濫用

競争法10条は、企業が単独又は共同で支配的地位を濫用することを禁止しており、支配的地位の濫用にあたる行為の例として以下の行為を挙げています。

  1. 直接又は間接に不公正な購入・販売価格その他の不公正な取引条件を取引相手に課すこと
  2. 製品、販売経路又は市場へのアクセス、技術開発、投資を制限・支配することにより消費者を害すること
  3. 特定の企業、グループ、企業部門に対して供給を拒絶すること
  4. 以下の場合に、他の取引相手との間の取引と同等の取引について異なる条件を適用すること
  • 新規参入又は既存の競争相手による拡大若しくは投資を阻害する
  • 支配的地位を有する企業よりも効率性の低い既存の競争相手を市場から排除する又は深刻な損害を与える
  • 支配的地位を有する企業が参加している市場又はその上流若しくは下流の市場において競争相手を害する
  1. 契約の主題とは関係のない慣習に基づく又はその性質に基づく付随的な条件についての他方当事者の同意を契約締結の条件とすること
  2. 競合他社に対する略奪行為
  3. 合理的な商業的理由を有しないにも拘わらず支配的地位にある企業が、競争相手が必要とする供給が十分ではない中間財又は資源を買い占めること

もっとも、支配的な地位にある企業が、合理的な商業的理由をもって行動することや、競合相手の市場参入又は市場行動に対して合理的な商業的対応措置を講じることは禁止されていません。

また、一般的には、マレーシアにおける関連市場のシェアが60%を超える事業者は、支配的地位を有するとされていますが(支配的地位の濫用に関するガイドライン第2条第2項)、支配的地位の判断にあたっては、市場の参入の容易性等の他の要素も考慮されます(同ガイドライン第2第14項)。