【日本の不動産法制度の概要 】

日本では、土地・建物共に外国人の不動産所有が認められており、所有権の期限は無く、自由に売買することができ、贈与、相続させることも可能です。今国会で土地利用を規制する法案が可決成立しましたが、安全保障関連施設周辺の土地を対象としており、一般的な不動産に関する外資規制としては、1925年に定められた外国人土地法が外資の土地取得を政令で制限できると規定しているものの、現在、政令による指定はなく、同法以外に一般的な不動産に関する外資の土地取得規制はありません。

不動産取引に関する法律は、土地の利用、建物の建築、不動産会社に対する規制、土地や建物に対する権利、売買や賃貸借の契約、不動産登記等の目的によって複数の異なる法律が運用されており、日本の法人や個人と同様に外国法人や個人にも適用されます。今回は、ビジネス及び生活においても関わる機会のある不動産の売買や賃貸借の契約に関する法律についてご紹介します。

(1) 民法

民法では、契約の成立要件や手付け、瑕疵担保責任など、契約の基本的な考え方が規定されており、契約内容について、当事者間で争いがあった場合や事前の取り決めがない場合には、原則として民法に基づき解決することになります。日本では、民法176条より、所有権の移転は、当事者の意思表示のみにより効力を生じます。したがって、当事者間での売買契約等の意思表示の合致のみで所有権は売主から買主へ移転します。もっとも、民法177条より、所有者が所有権を第三者に対抗するためには、不動産登記法等に基づき登記をすることが必要です。

(2) 借地借家法

民法では、契約関係にある当事者同士が対等・公平であることが原則とされていますが、賃借人保護等の観点から、土地(建物の所有を目的とするもの)及び建物の賃貸借契約に関して、民法の規定に優先して適用される法律です。借地借家法には、法の規定と異なる当事者間の合意で賃借人に不利なものは無効になり、借地借家法の規定が適用される条項(強行規定)も含まれています。

1 借地権[1]の存続期間及び更新

 借地権の存続期間は30年で、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間となります(借地借家法3条)。当事者が借地契約を更新する場合において、その期間は更新の日から10年で(借地権の設定後の最初の更新の場合は20年)、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間となります(借地借家法4条)。(a) 借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者[2]が契約の更新を請求したとき、及び、(b) 借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するとき、(a)(b)ともに建物がある場合に限り、4条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法5条1項2項)。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りではありません(同条1項但書)。これに対し、借地権設定者は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当な事由があると認められる場合でなければ、異議を述べることができません(借地借家法6条)。

2 借地権の対抗力

 借地権は、その登記がなくても、借地権者が、土地の上に登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができると規定されており(借地借家法10条1項)、仮に土地の所有権が第三者に移転した場合でも、借地権者が、その土地上に、登記されている建物を所有している場合は、借地権について対抗することができます。

3 建物の賃貸借契約の期間や更新・終了

 期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなされます(借地借家法29条1項)。建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、更新を希望しない当事者は、期間の満了の1年前から6か月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨を通知しなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法26条1項)。また、建物の賃貸人が賃貸借の解約の申し入れをした場合、建物の賃貸借は、当該申し入れの日から6か月を経過することによって終了します(借地借家法27条1項)。建物の賃貸人による更新をしない旨の通知又は解約の申し入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができません(借地借家法28条)。

4 建物賃貸借の対抗力

建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力が生じます(借地借家法31条)。例えば、建物の所有権が第三者に移転する前に、当該建物に居住している者は、当該第三者に対して、賃貸借について登記がなくても、その賃借権について対抗することができます。

(3) 宅地建物取引業法

宅地建物取引業法は、宅地建物取引業を営む者について免許制度を実施し、その事業に対し必要な規制を行うことにより、その業務の適正な運営と宅地及び建物の取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、もつて購入者等の利益の保護と宅地及び建物の流通の円滑化とを図ることを目的としています(宅地建物取引業法1条)。

宅地建物取引業者が自ら売り主となる売買契約について、消費者保護の観点から、民法の規定にかかわらず、契約内容の一部に制限を加えるなどの規制があります。具体的には、手付金や違約金等の金額の制限、瑕疵担保責任に関する制限が設けられており、これらの制限に違反する契約条項は無効となります。一方、賃貸借契約の内容に関しては、宅地建物取引業法に特別な規制はありません。

1 違約金の制限等

宅地建物取引業者がみずから売主となる宅地又は建物の売買契約において、当事者の債務の不履行を理由とする契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定めるときは、これらを合算した額が代金の額の10分の2をこえることとなる定めをすることはできません(宅地建物取引業法38条1項)。

2 手付の額の制限等

宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して、代金の額の10分の2を超える額の手付を受領することができません(宅地建物取引業法39条1項)。

3 担保責任についての特約の制限

宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法566条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をすることはできません(宅地建物取引業法40条)。

(4) 消費者契約法

消費者契約法は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合等について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的としています(消費者契約法1条)。

事業者の不適切な行為の結果、消費者が誤認、困惑したまま契約を締結した場合は、その契約を取り消すことができる、など、不動産の売買や賃貸借の契約を含む一般的な消費者契約について定めており、契約内容に消費者の権利を不当に害する条項がある場合には、その契約条項を無効とすることなどが規定されています。