【メキシコの著作権法の概要 】

メキシコにおける著作権は、主に連邦著作権法(Ley Federal del Derecho de Autor)とその規則(Reglamento de la Ley Federal del Derecho de Autor)によって保護されます。

(1) 権利保護の対象

著作権とは、いかなる文書や登録も要せず、形式に準拠する必要もなく認められるものであり、作家や芸術家、演出家、演者に、それらの文芸作品や芸術作品といった著作物に対する保護を付与するものです。独創的に創作された著作物であって、いずれかの形式又は媒体によって知覚され、伝達され、又は複製することができる著作物が保護の対象とされており、1文学、2音楽作品(歌詞の有無は問わない)、3劇、4ダンス、5絵画・デッサン、⑥彫刻及び立体芸術、⑦風刺画・漫画、⑧建築、⑨映画などの映像作品、⑩ラジオ・テレビ番組、⑪コンピュータプログラム、⑫写真、⑬グラフィック又はテキスタイルデザインを含む応用美術作品、⑭百科事典・アンソロジー・データベースなどの編集物に区分されます。

一方、1アイデア、公式、解決策、概念など一般的発明、2著作物に具現化されたアイデアの産業的又は商業的利用、3精神的行為、競技、事業を行うための枠組み、計画、規則、4(独創的なデザインとならない)文字、数字、色彩、5名称及びタイトル又はフレーズ、⑥情報の種類を問わず、それを記入するためのフォーマット及びその指示、⑦国、州、市町村あるいは同等の政治区分の紋章、旗、又は記章の無許諾の複製品あるいは模造品、又は政府間組織や国際非政府組織その他いずれかの公認機関の名称、略称、シンボルあるいは記章及びそれらの呼称、⑧立法上、規制上、行政上、司法上等の原文及びそれらの公的翻訳。これらの原文及び公的翻訳が出版される場合には、それらは、公的原文に合致していなければならず、かつ、それらは、排他的出版権を与えません。(ただし、対応する原文、解釈、比較研究、注釈、解説その他著作者側による原著作物の創作を伴う類似の著作物は保護の対象となり得えます)、⑨ニュースの情報内容(ただし、その表現形式は保護されます)。⑩格言、ことわざ、伝説、事実、カレンダー及び計量表などの日常使用される情報などは、著作権保護の対象とはなりません。

(2) 著作権の種類

著作権は大きく、著作者人格権と経済的権利に分けられます。

著作者人格権は、著作者に帰属し、不可侵で不滅の、放棄も押収もされない権利であり、1著作物をどのような形で公表するか、あるいは著作物を非公開にするかの決定、2著作物に著作者を表示することの要請、もしくは著作物を匿名又は仮名で公表することの決定、3著作物の変形や削除、その他の変更、及び著作物や著作者の評判を下げる行為に対して異議を唱え、著作物の尊重を要求すること、4著作物を変更すること、5著作物を市場から回収すること、⑥自身が創作していない著作物の著作者とされることに異議を唱える、といった行為を認めるものです。この権利は著作者本人のほか、その相続人も行使できますが、後者の場合、1~4に限定されます。

一方、経済的権利は、法が定める範囲内で、著作者人格権を損なうことなく、自身の著作物を独占的に利用し、又は他者にそれを利用することを許可する権利であり、1あらゆる手段によって実施される著作物の複製、出版、編集又はその他の表現、2文学的及び美術的著作物における表現、朗読又は講演、一般公開の展示、インターネット等の電気通信によるパブリック・アクセス、利用者の選択した場所、時間に当該著作物にアクセスできるようにした一般公開による著作物の公開、3ケーブル、光ファイバー、マイクロ波、衛星、その他の既知の手段による送信又は再送信を含む、あらゆる形式の著作物の公開送信又は放送、4販売など著作物を含む物理的物質の移転や使用、利用の移転を含む著作物の配布、5著作者の許可を得ずに制作された著作物の模造品のメキシコ国内への輸入、⑥翻訳、改作、言い換え、編曲、変換など、あらゆる形式の二次的著作物の普及、⑦法に規定された場合を除く、著作物の公的利用、を実施又は禁止すること、を認めます。これらは、著作者自身、その相続人や権利取得者が行使でき、著作者の生存中及び死後100年間(共同著作物の場合は最も長く生きた共同著作者の死後100年間)有効となります。

(3) 著作権の登録

著作権は、前述の通り、いかなる文書や登録も要せず、形式に準拠する必要もなく認められるものですが、著作者、関連する権利の所有者、及びそれぞれの経済的権利の所有者とその後継者の法的安全を保証するために、文化省(Secretaría de Cultura)の下部組織となる国家著作権庁(Instituto Nacional del Derecho de Autor、以下「INDAUTOR」という)に登録することもできます。なお、前述の経済的権利を譲渡する場合には、これを登録しなければ第三者に対抗することができません。

(4) 著作権の効果

著作権の侵害があった場合、著作者や著作権保有者は民事的、行政的、刑事的措置をとることができます。

例えば、経済的権利の侵害があった場合、民事的措置として、損害賠償や、講演、公開の中止、権利を侵害して得られた収入等の差し押さえなどの承認と実施を裁判所に対し要求することができます。

行政的措置については、事案に応じてINDAUTORもしくはメキシコ産業財産庁(Instituto Mexicano de la Propiedad Industrial)が管轄します。出版社、起業家、プロデューサー、雇用主、放送機関、又は実施権者が、法の規定に違反して著作権を譲渡することを目的とした契約を締結すること、放送機関が有する強制実施権の条件を侵害すること、文学的著作物の編集や印刷において、出版社の情報や出版年等の情報を省略し、もしくは誤って記載すること、著作者、翻訳者、編集者等の名前を記載せずに、著作物を公開すること、著作者や翻訳者、編集者等の評判を損なうように、著作物を公開すること、以前に公開された別の作品との混乱につながる作品のタイトルを不正に使用することなどが行政制裁の対象となっており、制裁金は、事案に応じてUMA 日額(Unidad de Medida y Actualización、2021年の日額は89.62ペソ)の1,500倍から22,000倍の額となります。また、著作者や著作権所有者の事前の明示的な許可なしに、著作物を利用可能にし又は公に使用すること、本人やその相続人の許可なしに肖像を使用すること、書籍、映画、レコード、ビデオグラム、その他の視聴覚作品といった著作物の複製物を、著作権者もしくは著作権保有者の許可を得ずに、製作し、製造し、仕入れ、頒布し、輸送し、又は販売すること、著作権保有者の許可を得ずに改変、変更、又は削除されている著作物を、販売、仕入れ、輸送又は頒布のために提供すること、コンピュータプログラムの電子保護装置を機能させないことを目的とする装置又はシステムの輸入、販売、貸与又はそれを占有させること、放送機関の放送を、許可を得ずに、再送信し、複製し、及び公衆に配信することなどが、直接的又は間接的な利益のために実行された場合、著作権保護のために施された効果的な技術的保護手段を回避し、侵害行為等を行った場合などは、商業的侵害に該当し、事案に応じてUMA日額の500倍から40,000倍の制裁金が課されます。

連邦著作権法の他、連邦刑法(Código Penal Federal)にも著作権侵害に対する刑罰が規定されており、事案に応じて、6か月以上10年以下の懲役やUMA日額の300倍以上30,000倍以下の罰金が科されます。

(5) 国際条約

 メキシコが加盟する著作権に係る主な国際条約は次の通りです。

・文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約ブリュッセル改正条約

・文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約

・万国著作権条約(パリ改正条約への批准を含む)

・実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約

・許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約

・視聴覚著作物の国際登録に関する条約

・著作権に関する世界知的所有権機関条約

・実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約