【フィリピンの遺言に関する法制度の概要 】

(1) 遺言の形式

フィリピンでは遺言は例外なく文書でなければならず、厳格なフォーマットを要件とすることでその有効性を担保しています。動画や音声の形式をとった遺言は認められません。遺言には公証遺言と自筆遺言の二種類があります。

1 公証遺言

公証遺言には以下のとおり厳格な定めがあります。

  1. 文書の最末尾に遺言者本人が署名を行うか、遺言者同席のもと、遺言者の指示によって、かつ遺言者の名において、別の人物が署名すること。
  2. 最低3名の信頼できる証人が、遺言者および他の証人同席のもと、文書末尾で署名および宣誓を行うこと。
  3. 遺言者、または遺言者からの依頼により遺言者の名で署名を行う者、および証人が、最後のページを除く全てのページの左側余白に署名をすること。
  4. すべてのページの上部にアルファベット表記でページ番号を振ること(例: “Page ONE”)。
  5. 宣誓部分には、(i)遺言の全ページ数、(ii)証人同席のもと、遺言者が末尾および全ページに署名を行ったか、明確な指示のもとで他の者に署名を行わせた旨、および(c)遺言者と他の証人同席のもと、証人が末尾および全ページに署名を行った旨を含めること。宣誓部分が証人の理解できる言語で書かれていない場合は、これを翻訳すること。
  6. 公証人の前で、遺言者および証人によって承認されること。

2 自筆遺言

他方、自筆遺言には以下の要件があります。

  1. すべて手書きであること。
  2. 遺言者によって日付と署名が付されること。

自筆遺言はフィリピン国内で行われる必要はなく、証人も必要ありません。しかし、その有効性を証明するにあたっては、遺言者の筆跡および署名を知る者が最低1名、遺言とその署名が遺言者本人の手で書かれたものであることを明示的に宣言する必要があります。また、遺言の有効性が争われる場合には、上記の宣言は最低3名によってなされなければなりません。

自筆遺言の場合、署名より下の部分に書かれた遺産の譲渡については、あらためて日付および署名が伴われなければ有効な譲渡として扱われません。なお、すべての編集、追加、削除箇所には遺言者の署名と日付が付されなければなりません。

どちらの遺言形式をとる場合であっても、遺留分及び相続人廃除に関するフィリピン国内法の規定の適用を受けます。

(2) 海外で行われた遺言および外国人による遺言

海外で行われた遺言もフィリピン国内で法的効力を持つことがあります。原則として、遺言の方式は遺言がなされる国の法律の定めに従うことになります。なお、フィリピン共和国の外交官または領事官員同席のもとで、海外で遺言が行われる場合には、フィリピン法が定める方式が採用されます。

これと同様、外国人がフィリピン国内で実施した遺言についても、それが本国法に則った方式で行われ、かつ同国の法律によって認められうるものであるならば、フィリピン法に則って行われたのと同様の効力を持つことになります。

ただし、相続順位、相続分、遺言内容に関する実質的有効性については、遺産の性質や遺産が存在する国にかかわらず、遺産相続者となりうる者の本国法が適用されます。

(3) 遺言の検認

遺言内容の実行にあたってはまず、裁判所による検認手続が必要となります。この手続により、遺言が然るべき形式および要件を満たしており、したがって有効なものであるという事実が確認されます。裁判所による承認なしには、遺言に沿った動産および不動産の承継を行うことはできません。