【メキシコの遺言に関する法制度の概要 】

メキシコの遺言に関する規定は民法に定められています。連邦民法(Código Civil Federal)のほか、各州の民法にも遺言の規定があり、原則、遺言者の所在するメキシコの各州の民法に従います。本ニュースレターにおいては紙幅の関係から、連邦民法に基づいた遺言書の形式のみをご紹介させていただきます。

メキシコでは遺言は、通常の状況下で作成される普通方式と特定の状況においてのみ作成を認められる特別方式の2種類に分類されます。 普通方式には、被封緘遺言、封緘遺言、簡易遺言、自筆証書遺言があり、特別方式の遺言には、私的遺言、軍人の遺言、海上遺言、外国で作成された遺言があります。以下では、軍人の遺言、海上遺言以外の各遺言の形式について解説いたします。

(1)非封緘遺言(Testamento Público Abierto)

非封緘遺言は、法律の規定に従い、公証人の面前で行う遺言です。遺言者は、公証人に明確かつ確実に遺言を述べなければなりません。公証人は、遺言書の条項を遺言者の意思に厳密に沿って書面に作成し、遺言者が同意しているかどうかを述べるために読み上げを行います。遺言書には、遺言者及び公証人のほか、必要に応じて証人及び通訳が署名し、場所、年月日、時間を記録しなければならないとされています。

遺言者がスペイン語を知らない場合には、遺言者は遺言書を書き、その遺言書は遺言作成のために読み上げに立ち会う通訳者によってスペイン語に翻訳されます。翻訳はそれぞれの公証原簿と原本に遺言として転記され、遺言者、通訳者、公証人によって署名され、行為に関与する公証人の対応する付録に保管されます。

この手続きは、遺言書の朗読から始まる単一の行為で行われ、公証人はそれらが完了したことを証明しなければならないとされています。

この厳格な形式に従わなかった場合、遺言書は無効となり、公証人は損害賠償責任を負うとともに、公証人の職を失うとされています。

(2)封緘遺言(Testamento Público Cerrado)

 封緘遺言は、遺言者又は遺言者の依頼を受けた他の人が書面に書く遺言で、遺言書は封緘され、証人3人の立会いの下に公証人に提示します。遺言者は、提示をするときは、その用紙に遺言書が記載されていることを宣言します。

この宣言の証明は、押印された遺言書の表紙に行われ、遺言者、証人及び公証人が署名し、公証人も押印をしなければなりません。形式を欠いた封緘遺言は効力を有さず、そのような遺言の宣言に携わった公証人は損害賠償責任を負うとともに、公証人の職を失うとされています。

遺言書が封緘され、承認されると、遺言者に交付され、公証人は遺言書が承認され交付された場所、時間、年月日を公証原簿に記録します。

遺言者は、遺言書を自分の手元に保管するか、自分が信頼する者に保管させるか、または司法記録保管所(archivo judical)に預けることができます。遺言者が自分の遺言書を司法記録保管所に預けるときは、遺言書を持って司法記録保管所の担当者の面前に出頭しなければいけません。担当者は、預かり又は引渡しをファイルに記録し、その記録には担当者と遺言者が署名し、遺言者には謄本が渡されます。

この封緘遺言は、公証人及び証人が裁判官の前で、遺言者又は遺言者のために署名した者の署名を確認し、自分の意思に基づき、引渡時と同様に封緘され、封印されているかどうかを宣言した後でなければ、開封することができません。

封緘遺言は、内容に不備がなくても、中紙が破られたり、表紙が開かれたり、それを承認する署名が消されたり、傷がついたり、修正されたりすると、無効になります。

(3)簡易遺言(Testamento público simplificado)

簡易遺言は住宅を目的とし、または目的としようとする不動産の取得の際に、同じ証書で相続人を確定するもので、公証人の面前で作成されます。不動産価格またはその評価額が、取得時に年額UMA(Unidad de Medida y Actualizaciónの略。2021年の年額は32,693.40ペソ)の25倍相当額を超えていないことなどの要件を満たす必要があります。

(4)自筆証書遺言(Testamento Ológrafo)

自筆証書遺言は、遺言者の自筆で書かれた遺言書であり、公証記録保管所(Archivo General de Notarías)に預けなければ、その効力を生じません。

他の形式の遺言は16歳以上であれば遺言を行いえますが、自筆証書遺言は、18歳に達している者のみが行うことができ、有効であるためには、遺言者が全文を書き、署名し、その年月日が記載されなければなりません。外国人の場合は、自国語での自筆遺言を作成することができます。

遺言者は、自筆証書遺言を2部作成し、それぞれに自分の指紋を捺印しなければなりません。原本については、遺言者は、遺言書の原本を入れた封筒に、「この封筒の中身は私の遺言書です。」と自筆し、預ける場所と日付を記入します。付記は、遺言者と公証記録保管所所の担当者によって署名され、身分証明の証人がいる場合は、その人も署名しなければなりません。そのうえで、封緘された封筒に入った原本は公証記録保管所に預けます。

封緘された封筒に入った副本は、公証事務所の担当者による「私は、….(遺言者)….. 氏が自筆証書遺言の原本が入っていると宣言した封緘された封筒を受け取った。また、同氏によれば、この封筒の中には複製が存在する。」 との表紙の注記とともに遺言者に返却されます。遺言者は、遺言書の入った封筒に、違反を防止するために必要と思われる署名などを付けることができます。

相続発生時、遺言書の複製を所持している者、または自筆証書遺言を預けていることを知っている者は、管轄の裁判官に通知しなければならず、裁判官は遺言書がある公証記録保管所の担当者に遺言書を送るよう要請しなければなりません。

遺言書が受理されると裁判官は遺言書が入っている表紙を調べて要件を満たしていることを確認し、その場所に居住する身元確認証人にその署名と遺言者の署名を認識させ、検察官、利害関係者として出頭した者及び前述の証人の立会いのもと、遺言書が入っている封筒を開封します。要件を満たし、遺言者が預けたものと同一であることが確認された場合には、遺言者の遺言は正式なものであると宣言されます。

(5)私的遺言(Testamento Privado)

私的遺言は、遺言者が非常に深刻な病気にかかり、公証人の面前で遺言書を作成する時間がない場合など、遺言者が自筆証書遺言を作成することができない限定的な場合にのみ認められます。

私的遺言をする場合になった遺言者は、原則5人の適当な証人の立会いのもとに、自分の遺言を宣言し、遺言者が文字を書くことができない場合には、そのうちの1人が書面を作成しなければなりません。

私的遺言を作成する場合には、非封緘遺言の手続を準用することとされていますので、遺言者は、証人に明確かつ確実に遺言を述べることを要求されます。証人は、遺言書の条項を遺言者の意思に厳密に沿って書面に作成し、遺言者が同意しているかどうかを述べるために読み上げを行います。遺言者及び証人のほか、必要に応じて通訳が署名し、場所、年月日、時間を記録しなければなりません。

私的遺言は、遺言者があった病気や危険な状態により死亡した場合、または私的遺言を認める原因が消滅した後1ヶ月以内に死亡した場合にのみ有効となります。

遺言者の死亡後に私的遺言が有効であるためには、申請を行うことが必要です。 この申請は、遺言者の死亡およびその処分の方法を知ったときに、利害関係者が直ちに請求するものとされています。私的遺言に立ち会った証人は、1遺言書が交付された場所・時間・年月日、2遺言者をはっきりと認識し、見て、聞いたかどうか、3処分の内容、4遺言者が健全な精神状態にあり、強制されていなかったかどうか、5私的遺言がなされた理由、⑥遺言者が病気で亡くなったことを知っているかどうか、危険な状態にあったことを知っているかどうかなどの事項を届申請なければなりません。

 これらの申請事項が確認された場合、裁判官は、正式な遺言であると宣言します。

(6)外国で作られた遺言

外国で作成された遺言書は、その遺言書が作成された国の法律に基づいて作成された場合、メキシコシティで効力を有します。公使の書記官、メキシコ領事および副領事は、遺言書がメキシコシティで執行されなければならない場合に、在外国民の遺言書の公証人または受取人を務めることができます。

なお、メキシコは、ハーグ条約のうち、「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」を批准していません。