マレーシアにおける特許制度は、特許法(Patents Act 1983)によって規律されています。
(1) 概要
特許法は、発明が新規性、進歩性及び産業上の利用可能性を有している場合は、その発明は特許を受けることができるとしています(特許法11条)。
- 発明及び発明の単一性
特許法により保護する発明とは、発明者の思想であって、当該技術の分野における一定の課題についての解決を実際に可能にするものをいうと定義されます(特許法12条(1))。そして、特許の出願は、1の発明又は単一の一般的発明概念を形成するように関連している一群の発明について認められます(特許法26条)。
2. 新規性
発明が先行技術により予測されないものであるときはその発明は新規性を有するものと認められます(特許法14条(1))。
3. 進歩性
先行技術を構成するすべての事項を考慮した場合に、その進歩性がそれにかかる技術において通常の技量を有する者にとって自明でないときは、その発明は進歩性を有するものとみなされます(特許法15条)。先行技術とは、その発明をクレームする特許出願の優先日前に、世界の何れかの場所において、書面による発表、口頭の開示、使用その他の方法で公衆に開示されたすべてのものをいいます(特許法14条(2)(a))。
4. 産業上の利用
発明が、いかなる種類の産業においてでも、製造又は使用することができる場合には、産業上の利用可能性があるものとみなされます(特許法16条)。
(2) 登録
1 基本的な審査手続
特許の登録手続は1出願要件審査、2方式審査、3出願公開、4実体審査という手順で進められます。方式審査が終了後、改めて実体審査の請求をする必要がある点に注意が必要となります。実体審査においては、新規性、進歩性、産業上の利用可能性等が審査されます。また、実体審査の請求には、工業所有権所轄当局(日本で登録されている特許であれば日本国特許庁)における特許の出願番号及び出願日に関する情報等を添付しなければなりません(特許規則27条(3))。
2 修正実体審査
日本において当該発明について特許を受けている場合、実体審査に代えて修正実体審査を請求することもできます。修正実体審査の場合は、特許を受けることができない発明か否か(特許法13条)及び新規性(特許法14条)については審査しますが、進歩性、産業上の利用可能性及び発明の単一性等の審査がないため(特許規則27D条(1))迅速に特許権を獲得することができます。
3 早期審査制度
以下のいずれかの場合には、早期審査を申し立てることができます(特許規則27E条(3))。
- 国家又は公衆の利益となる場合(同項(a))
- 登録出願する特許について、侵害行為が発生しているか、侵害行為が発生する可能性を示す証拠のある場合(同項(b))
- 出願人が当該発明を既に商品化しているか、早期審査請求日から2年以内に商品化する予定である場合(同項(c))
- 特許登録出願が政府又は登録局の認める機関から金銭的利益を得るための条件となっている場合(同項(d))
- 当該発明が環境保護又はエネルギー資源保全に資するグリーン技術に関連するものである場合(同項(e))
- その他早期審査を裏付ける合理的な理由のある場合(同項(f))
- 特許審査ハイウェイ
日本の特許庁はマレーシア知的財産公社との間で、2020年10月1日より特許審査ハイウェイは本格実施されています。同制度では、以下の要件を満たす特許出願の審査を大幅に短縮させ迅速な権利実現を図ることができます。
- 申請する日本出願及び対応するマレーシア出願において、優先日又は出願日のうち、最先の日付が同一であること
- 対応するマレーシア出願が存在し、既に特許可能と判断された一つ又は複数の請求項を有すること
- 審査を申請する当該出願のすべての請求項が、対応するマレーシア出願の特許可能と判断された一つ又は複数の請求項と十分に対応しているか、十分に対応するように補正されている
- 申請時において、当該出願に関し日本の特許庁における審査が着手されていないこと
- 申請時又はその前に、日本の特許庁において、審査請求が行われていること
(3) 特許権者の権利
特許権者は、以下の事項について排他的権利を有しています(特許法36条)。
1 特許発明を実施すること(同条(1)(a))
- 製品に関して付与する場合(同条(3)(a))
- その製品を製造、輸入、販売の申出、販売又は使用すること
- その製品を、販売の申出、販売又は使用のために保管すること
- 方法に関して付与する場合(同条(3)(b))
- その方法を使用すること
- その方法によって直接に取得された製品に関し、(a)にいう行為のいずれかを行うこと
2 特許を譲渡又は移転すること(同条(1)(b))
3 ライセンス契約を締結すること(同条(1)(c))