(1) 関連する法規定
メキシコにおいて、E-コマースを体系的に規制する法令はなく、商法(Código de Comercio)に規定される電子的手法による契約に関する規定や連邦消費者保護法(Ley Federal de Protección al Consumidor)に規定される電子商取引における消費者保護規定などを遵守する必要があります。取扱品についても、商品ごとに適用される法令や輸出入規制などを遵守する必要があります。
その他、メキシコ国内に拠点を持たない海外居住者がデジタル・サービスを提供する場合について、付加価値税法(Ley del Impuesto al Valor Agregado)及び税務細則(Resolución Miscelánea Fiscal)に付加価値税の負担や領収書発行に関する規定が設けられています。
(2) 商法上の電子情報の受信に関する規定
E-コマースにおいては、契約の申込みや承諾、取消しなどの意思表示も電磁的な手段を用いて行われ、どの時点で意思表示が到達したか問題となった場合にはその到達時期を確定する必要があります。電子情報は、送信者と受信者の間で別段の合意がない限り、受信時刻は次の時刻として決定されます。
- 受信者が電子情報の受信のためにウェブサイトなど電子情報の生成、送信、受信、保存、その他の処理を行うために使用される機構(以下「ウェブサイト等」)を指定している場合、その受信は、当該ウェブサイト等に入った時点
- 電子情報が指定されたウェブサイト等以外のアドレスのウェブサイト等に送信された場合、または指定されたウェブサイト等が存在しない場合、アドレスが電子情報を取得した時点
- 受信者がウェブサイト等を指定していない場合、電子情報が受信者のウェブサイト等に入った時点
(3) 連邦消費者保護法上の義務
電子的、光学的又はその他の技術を用いて行われる取引における事業者と消費者間の取引に際し、事業者は次の事項を遵守するものとされています。
- 事業者は、消費者自身が明示的に許可した場合、又は管轄当局の要求がある場合を除き、取引外の他の供給事業者に情報を広めたり送信したりしてはならず、消費者から提供された情報を秘匿しなければなりません。
- 事業者は、利用可能な技術的要素を使用し、消費者から提供された情報の保護と機密の維持を図り、当該要素の一般的な特徴を予め消費者に通知しなければなりません。
- 事業者は、契約締結前に、自身の住所、電話番号、その他消費者が苦情を申し出たり説明を求めたりできる手段を提供しなければなりません。
- 事業者は、製品の特性に関して誤解を招くような行為を避け、商品やサービスに関する情報又は広告において、真実性、検証可能性、明確性を備え、誤解を招く文字、ダイアログ、音、画像、ブランド、原産地表示を用いてはなりません。
- 事業者は、利用規約、提供する商品やサービスの価格や料金、追加料金(ある場合)、支払い方法について、消費者がすべての情報を知る権利を行使できるようにしなければなりません。
- 事業者は、購入を希望する商品の量及び質に関する消費者の決定、並びに商業広告を受け取らないという決定を尊重しなければなりません。
- 事業者は、提供されるサービスに関する明確かつ十分な情報を消費者に提供しない販売又は広告戦略を使用してはなりません。特に、子供、高齢者、病人などの弱者を対象としたマーケティングの場合は、情報がこれらの人々に適していない場合に警告する仕組みを組み込むものとします。
そのほか、E-コマースに限りませんが、「バーゲン(oferta)」、「格安(barata)」、「ディスカウント(descuento)」、「大安売り(remate)」などの表現を行う場合は、通常価格を下回る価格で販売されると理解され、広告には販売の条件や期間、提供される商品やサービスの量を示す義務があります。E-コマースにおいても、このようなプロモーションを行う場合、消費者は、事前に決められた販売期間中、または、入手可能性がある限り、当該商品やサービスを購入する権利を有するとされており、当該商品の購入やサービスの利用ができない場合には、消費者は、契約の履行、別の同等商品やサービスの受領、契約解除のほか、通常価格との差額の支払いを受ける権利を有するとされている点にも留意する必要があります。
(4) メキシコ規格の規定内容
連邦消費者保護法第76 BIS 1条では、提供する商品やサービスに適用される条件等、商品の購入やサービスの利用について、その意思や条件を消費者が確認できるメカニズム、消費者の個人情報や取引に関する情報を機密に保持するためのメカニズム、苦情受付方法や支払い方法などについて、メキシコ規格を制定することと規定されており、NMX-COE-001-SCFI-2018が施行されました。メキシコ規格は順守義務を課す規格基準ではなく、この規定に反した場合の制裁もありませんが、消費者とのトラブルを回避するためにも従うことが推奨されます。
- 情報提供や広告
- ウェブサイト等で提供される情報及び広告は、真実性、検証可能性、明確性を有するものであり、誤解を招くような、又は乱暴な表現によりユーザー及び消費者を混乱させる可能性のある文字、ダイアログ、音、イメージ、その他の概念を含んでいてはなりません。
- 商品やサービスに関する情報及び広告は、スペイン語で明瞭かつ読みやすい文字で書かれていなければならず、価格や料金は、メキシコペソで記載されていなければなりません。ただし、補足的に他の言語や通貨で表示しても構いません。疑義が生じた場合は、スペイン語やメキシコペソの表示が優先されます。
- ウェブサイト等で公開すべき商取引の条件
- ウェブサイト等では、少なくとも次の情報を含む取引の条件を公開しなければなりません。
(a) サプライヤーを特定するための情報
i)屋号、ii)ブランド(該当する場合)、iii)商号(該当する場合)、iv)メキシコ国内の住所、v)納税者番号(Registro Federal de Contribuyentes、通称RFC)、vi)電話番号、又はその他の連絡手段(ソーシャルメディア)、及びvii)電子メールアドレス、ウェブサイトURL、運営している外部ポータルサイトURL
(b) ウェブサイト等の機能における利用不能、アクセス不能、又は中断から生じる責任に関する情報
(c) 商品やサービスの取得手続きに関する情報
これには、商品やサービスの特性や制限事項を知ることができる箇所を示す必要があります。
(d) 法に定める消費者の権利に関する情報
これには、消費者が責任又は正当な理由なく同意を取り消すことができるようにするための手続きを含める必要があります。なお、この取消の条件は次の通りです。
・ 商品の引渡又はサービスの受領の時期から5営業日以内であること
・ 商品又はサービスが使用又は消費されていないこと
・ 商品又は製品が引き渡された当初の状態(付属品、包装、マニュアルなどを含む)で保管されていること
・商品又はサービスの購入及び支払いが証明できること
(e) 通知方法又は消費者との連絡手段に関する情報
(f) 商品やサービスの返品又は交換、あるいは該当する場合には払い戻しの仕組みに関する情報
これには、必要な場合は、税務証憑の取得及び税務証憑の修正の仕組みに関する情報を含みます。保証は法律に定める期間を下回ってはならず、これを提供する場合には、保証期間を通知しなければなりません。
(g) 対応する曜日や時間帯、解決までの所要時間を含む、苦情や問い合わせへの対応に関する情報
(h) 紛争が発生した場合に適用される規則及び方針、並びに法的解釈や、適用されうる法律やメキシコ連邦消費者保護局の権限
(i) 該当する場合には、ウェブサイト等へのアクセスに関する年齢制限。
これは、ウェブサイト等の内容及び事業の性質によって決定されます。成人専用のサイトでは、未成年者のアクセスをブロック又は防止する仕組み、又はユーザーや消費者が連邦民法で定められた法定年齢に達していることを表明する通知を表示する仕組みを設ける必要があります。
(j) ユーザー又は消費者の登録及びアクセスに関する要件、並びにウェブサイト等の使用に関する規定
(k) 情報セキュリティを危険にさらす可能性のある情報を除く、ウェブサイト等のセキュリティメカニズムに関する情報
(l) 請求と支払の条件、税務証憑や商取引の証憑の入手方法、それらの訂正を求める方法
(m) 輸入された商品の場合、商品の原産地
商品には、修理可能な場所や使用方法の通知、及び法律で定められた最低限度の保証が含まれていなければなりません。
(n) 必要な場合は、商品の返送と商品の交換又は支払金額の返金や割戻を求める権利、あるいは補償を受ける権利の通知
交換や返金は次の場合に可能となります。
・商品が返送される場合
・品質、ブランド、仕様等が提供された情報と異なる場合
・ラベル、容器、包装に関する規定などメキシコの公式規格に準拠していない場合
事業者の責に帰すべき事由により、サービスの提供に不備がある、又は提供されない場合、又はメキシコの公式規格に準拠していない場合には、割戻し又は補償を受ける権利を通知しなければなりません。
3 商品、製品やサービスに関する情報
提供される商品、製品又はサービスの内容は広告で提示されたものと一致しなければなりません。したがって、ウェブサイト等は、提供される商品、製品又はサービスに関する情報を表示し、常に最新の状態に保たなければならず、少なくとも次の内容を含んでいなければなりません。
(a) 商品の場合
i) 仕様(寸法、機能、色、品質、製造に使用された材料、新品か中古であるか、中古の場合、修理済み、使用済みといった情報)を含む商品の説明、ii) GTIN(Global Trade Item Number、商品識別コード)(任意)、iii) 商品や製品の入手可能性や在庫状況、iv) メキシコペソでの支払い総額、その他税金や追加料金、該当する場合は、キャッシュボーナス、景品、割引など、v) 保証を提供する場合は、保証期間、vi)配送形態(費用、時間、配送オプションを含む)、並びに配送事業者を利用する場合の配送事業者の責任、及びvii) 該当する場合は、視聴覚的識別手段及び操作方法(写真、ビデオ、説明書、品質証明書、マニュアルなど)
(b) サービスの場合
i) サービスの説明(サービス提供の日時、場所、サービス提供者など)。また、サービス提供のために下請事業者を利用する場合は、その旨と下請事業者に関する情報、ii) 保証を提供する場合の保証期間、iii) 適用されうるサービスの制限、iv) サービスの期間、v) メキシコペソでの支払い総額、その他税金や追加料金、該当する場合は、キャッシュボーナス、景品、割引など、定期的な料金の支払いの有無とその変更方法、vi) サービスの更新、変更、解除や解約の手順、vii) 当初の契約内容に変更が生じる場合の通知と同意の方法
ウェブサイト等は、消費者が商品・製品・サービスを評価し、商取引の経験をフィードバックするとともに、他の消費者の評価や意見を知ることができる仕組みを有していなければなりません。
4 個人情報の取扱
プロファイリング、オンライン行動分析、マーケティング、広告又は商業的調査を目的としたユーザー及び消費者の個人情報の取扱については、以下の対応が必要となります。
(a) 個人情報の取扱について、プライバシーポリシーで通知すること
(b) 事前にユーザー又は消費者本人の同意を得ること
プライバシーポリシーとは別に、事前にユーザー又は消費者に対して、かかる目的で個人情報を利用することについて同意を求めることができる仕組みを用意しなければなりません。
(c) 同意を撤回するために利用できる手段と手続の提供
また、事業者は、個人情報保護法などに定める個人情報保護に関する義務を考慮して、ウェブサイト等を設計または選択するなど個人情報の取扱に適切な措置を講じなければなりません。
5 取引の取消等
ウェブサイト等は、消費者が取引の確認、承諾、修正又は取消を行うことができる仕組みを有していなければなりません。
(4) 付加価値税法及び税務細則上の規定内容
デジタル・サービスの提供については、メキシコ国内に拠点を持たない海外居住者であっても、当該サービスの提供にかかる付加価値税を負担することになります。
- また、サービスの受領者から要求があった場合は、居住する地域で適用される規則に従って、領収書(PDFファイル形式)を電子的に発行し、送付しなければなりません。この領収書には、①発行者の氏名又は法人名、②発行された国と都市、③発行者の納税者番号、④サービスの対価としての価格(付加価値税を除く)、⑤サービスにかかる付加価値税、⑥サービスのコンセプトや説明、⑦発行日と対価の対象となる期間、⑧受取人のRFCが記載されている必要があります。
対象となる「デジタル・サービス」は、画像、映画、文章、情報、動画、オーディオ、音楽、ゲーム、その他のマルチメディアコンテンツ等へのアクセスやダウンロード(電子書籍、新聞、雑誌へのアクセスやダウンロードは除く)、商品・サービスの提供者と利用者を仲介するサービス、オンラインクラブやデートサイト、オンラインでの通信教育やテスト、演習が該当します。