【フィリピンにおける相続制度の概要】

(1) はじめに

 相続人は、遺言によって(遺言相続)、または法律によって(法定相続)、その範囲が確定します。遺言による相続人がいない場合、法律により、嫡出および非嫡出の区別を問わず故人の親族に相続権が生じます。法定相続については、民法第960条から第1014条が、法定相続人の扱いについて詳細に規定しています。

 相続では、被相続人に最も近い親族が、より遠い親族に優先されます。関係の近さを示す指標としては、日本と同じく「親等」の概念が採用されており、たとえば親等数が同じである親族は均等に相続できるとされます(一定の例外あり)。相続は、第一に直系卑属(子・孫など自分より後の世代で、直通する系統の親族)を対象とします。被相続人の子および子孫がいない場合、その父母およびその子孫が相続しますが、ここに傍系親族(兄弟、姉妹、叔父叔母、従兄弟、甥、姪など)は含まれません(985条)。直系の子孫、尊属、非嫡出子、生存配偶者がいない場合、傍系親族が相続します(1004条から1010条)。相続権を有する者がいない場合、裁判所規則の定めるところに従い、国が遺産の全部を相続します(1011条、1012条)。

(2) 相続の放棄

 相続人は、相続を放棄することができます。相続放棄は、公的文書で行うか、司法の承認を必要とする場合には、遺言・相続の手続きを管轄する裁判所に提出する請願書によって行わなければなりません(1051条、1057条)。進行中の遺言・相続に関する手続きにおいて相続を放棄するには、裁判所が遺産分割の命令を出してから30日以内に、相続人は裁判所に対して相続を承認するか放棄するかを意思表示しなければなりません。期間内に意思表示をしない場合、相続人は相続を承認したものとみなされます(1057条)。

 相続の放棄は、一旦成立すると取り消すことができません(1056条)。

 相続人が相続財産を放棄して債権者を害した場合、債権者は裁判所に対し、相続人の名で相続財産を承認することを許可するよう申し立てることができます。

 相続人が相続を承認または否認することなく死亡した場合、その権利は当該相続人の相続人に移転します(1053条)。

(3) 相続廃除について

 相続人の廃除(相続の資格が奪われること)は、法律上の廃除の原因を特定した上でなされる遺言によってのみ行うことができます。これらの原因の一部は次のとおりです。

  1. 相続人が遺言者、その配偶者、子孫、または尊属の生命を害する企てを行ったと認められたとき。
  2. 相続人が遺言者を6年以上の懲役が定められている罪で告発し、その告発に根拠がないことが判明したとき。
  3. 相続人が遺言者の配偶者と姦通または姦淫の罪を犯したとき。
  4. 詐欺、暴力、脅迫、不当な影響力によって相続人が遺言者に遺言を作成させたり、既に作成された遺言を変更させた場合。
  5. 遺言者の扶養を不当に拒否したとき。
  6. 相続人が遺言者への言動による虐待を行ったとき。
  7. 相続人が不名誉な生活を送っているとき。
  8. 相続人が民法上の権利剥奪を伴う罪を犯したとき。
  9. 相続人たる親が子を捨てたり、子に堕落した生活や不道徳な生活をさせたり、道徳に反することをしようとしたとき。
  10. 遺言者の親の一方が他方の親の生命に対して企てたとき。ただし、両者の間に和解が成立している場合はこの限りではない。
  11. 相続人たる配偶者が別離または親権喪失の原因を作ったとき。