【メキシコにおける相続制度の概要】

(1) 関連規定

メキシコの相続に関する規定は民法に定められています。連邦民法(Código Civil Federal)のほか、各州の民法にも相続の規定がありますが、ほぼ共通の内容と言われています。以下では、連邦民法の規定の内容をご紹介いたします。

(2) 法定相続

遺言がない場合、遺産分割協議により相続財産の分割を決定することができます。これがまとまらない場合には、法定相続分に応じて、遺産を相続することになります。

相続人となりうるのは、直系卑属(養子を含む。)、配偶者、直系尊属、4親等内の傍系血族および内縁の配偶者(ただし、被相続人死亡の前5年間同棲していたか、両者の間に子がいる場合に限ります。)です。

ただし、配偶者は、夫婦の財産全てについて財産分離制(separación de bienes)を採用していた場合には相続権はありません。メキシコにおける婚姻関係においては夫婦財産契約において、夫婦組合制(sociedad conyugal)または財産分離制(separación de bienes)を選択することとなります。全財産のうち一部のみを財産分離制とすることもでき、財産分離制を採らない財産は、夫婦がこれを共有することとなり、当該財産について配偶者に相続権が生じます。夫婦の財産全てについて財産分離制を採用しない場合には、全てが夫婦共有財産となり、配偶者に相続権が生じます。

また、上記相続人となりうる者のうち、世代により構成される順位の最も高い親族のみが相続人となるのが原則です。同順位の親族は、均等に相続をすることになります。順位については、第1順位が、子(養子を含む。)、配偶者、父母(養父母を含む)、第2順位が、祖父母、兄弟姉妹、孫、養子による兄弟姉妹、第3順位がおじ、おば、甥、姪、曾祖父母、ひ孫、第4順位は、いとこ、大おじ、大おばとなります。

たとえば、被相続人に配偶者(全ての財産について財産分離制を採用しなかった場合)と子2人がいる場合は、配偶者と子2人が相続人となり、法定相続分は3分の1ずつとなります。ただし、一部に財産分離制を採用している場合は、当該財産については子2人が相続し、当該財産以外の財産を配偶者と子2人で3分の1ずつ分割することとなります。また、第2順位となる被相続人の祖父が相続を受けるのは、第1順位にあたる子、配偶者、父母らがいない場合となります。

上記が法定相続に関する原則となりますが、いくつか例外が設けられています。

相続人となる者が配偶者(全ての財産について財産分離制を採用しなかった場合)と直系尊属の場合には、相続財産は2等分され、一方は配偶者に、他方は直系尊属に分割されます。たとえば、被相続人に、配偶者、父母がいた場合、法定相続分は配偶者が2分の1、父母が各4分の1となります。ただし、一部に財産分離制を採用している場合は、当該財産については父母が相続し、当該財産以外の財産を配偶者が2分の1、父母が4分の1ずつ取得することとなります。

また、相続人となる者が、配偶者(すべての財産について財産分離制を採用しなかった場合)と被相続人の兄弟姉妹の場合は、配偶者は相続財産の3分の2を、残りの3分の1は兄弟姉妹に割当てられ、兄弟姉妹間で均等に分割されることとなります。ただし、一部に財産分離制を採用している場合は、当該財産については兄弟姉妹が相続し、当該財産以外の財産を配偶者が3分の2、兄弟姉妹が3分の1を取得することとなります。

(3) 相続放棄・相続人の廃除

① 相続放棄

相続放棄は、明示的に、裁判官の面前で書面により、または、公証人の面前で公正証書により行われなければなりません。

相続人が相続を受け入れるか否かを表明することに利害関係を有する者は、相続の開始後9日以内に、裁判官に対し、相続人が相続を放棄するか表明するための1ヶ月を超えない期限を設けるよう請求することができ、この請求をしないときは、相続を受け入れたものとみなされます。日本と比べると熟慮期間は短く、相続放棄を検討する場合には早期に対応を行う必要があります。

また相続放棄は、いったん行われると取り消すことができず、詐欺または暴力によって行われた場合を除き、異議を申し立てることができません。

② 相続人の廃除等

相続人の廃除は、日本においては、被相続人の意思に基づいて推定相続人の相続権を失わせる制度ですが、メキシコにおいては、これに対応した制度はありません。ただし、相続の利害関係人からの請求により、次の事由に該当する者に対し、推定相続人の相続権を失わせることはできます。

  • 被相続人、その親、その子、その配偶者、その兄弟姉妹に死を与え、命じ、または与えようとした罪で有罪判決を受けた者。
  • 被相続人、その直系尊属、その直系卑属、その配偶者又はその兄弟姉妹に対して、死刑又は禁錮に当たる罪の告発をした者。ただし、告発者、その直系尊属、その直系卑属、その兄弟姉妹又はその配偶者の生命や名誉のために必要とした行為の場合は除く。
  • 裁判によって不貞相手とされた配偶者。
  • 不貞した配偶者の共犯者。
  • 被相続人、その子、その配偶者、その直系尊属またはその兄弟姉妹に対して行った禁錮刑に当たる罪を犯した者。
  • 子を遺棄する父親および母親。
  • 直系卑属を放棄し、売春させ、堕落させた直系尊属。
  • 親族で、扶養の義務を有するにもかかわらず、これを履行していない者。
  • 働くことができず、資力がない被相続人を迎えること、または福祉施設で保護させることに配慮しない親族。
  • 遺言を作成させ、作成させず、または撤回させるために、暴力や詐欺を行った者。
  • 刑法に基づき、幼児を隠蔽、取り換えまたは出産偽証する罪を犯した者。ただし、当該相続が幼児または当該行為によって損害を受けた者もしくは損害を受けようとした者に対応すべきものであった場合に限る。