「相続」とは、個人が死亡した場合に、その者の有していた財産上の権利義務をその者の配偶者や子など一定の身分関係にある者に承継させる制度のことをいい、この場合、財産上の権利義務を承継される者のことを「被相続人」、これを承継する者のことを「相続人」といいます。相続については、民法にて定められています。
(1) 相続人の種類と順位
相続人となり得る者は、被相続人のi) 子(民法第887条第1項)、ii) 直系尊属(父母、祖父母など)(民法第889条第1項第1号)、iii) 兄弟姉妹(民法第889条第1項第2号)並びにiv) 配偶者(法律上婚姻関係にある者で、内縁関係を含まない)(民法第890条)です。これらの者のうち、配偶者は、常に相続人となることができ(民法第890条)、被相続人の死亡よりも前に被相続人の子が死亡している場合など被相続人の子が相続権を失った場合、その者の子(被相続人の孫)が相続人(代襲相続人といいます)となります(民法第887条第2項)。直系尊属及び兄弟姉妹は、被相続人の子又は代襲相続人がいない場合に相続人となることができます(民法第889条第1項)。相続人の順位は、第一順位が子と配偶者、第二順位が直系尊属と配偶者、第三順位が兄弟姉妹と配偶者となります(民法第887条、889条、890条)。
(2) 相続欠格
以下の相続秩序を侵害する非行(相続欠格事由)をした相続人の相続権は何らの手続を経ずに法律上当然にはく奪されます(民法第891条)。
- 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
- 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
- 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
- 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
(3) 推定相続人の廃除
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができます(民法第892条)。この廃除は、相続欠格事由ほど重大な非行ではないが、被相続人からみて自己の財産を相続させるのが妥当でないと思われる非行が存在する場合に、被相続人の意思に基づいて当該相続人の相続資格をはく奪する制度です。
なお、遺留分とは、一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分のことをいいます。被相続人は、自身の財産の行方を遺言により自由に定めることができますが、被相続人の遺族の生活の保障のために一定の制約があります。これが遺留分の制度です。
(4) 相続分の種類
① 法定相続分
「法定相続分」は、被相続人が遺言で相続分を指定していない場合に、遺産分配の基準となるものであり、同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の通りです(民法第900条)。
相続人 | 法定相続分 | 留意事項 |
子と 配偶者 | 子 2分の1 配偶者 2分の1 | 子が数人あるときは、子の法定相続分を均分する。 |
直系尊属と配偶者 | 直系尊属 3分の1 配偶者 3分の2 | 同じ親等の直系尊属が数人あるときは、 直系尊属の法定相続分を均分する。 |
兄弟姉妹と配偶者 | 兄弟姉妹 4分の1 配偶者 4分の3 | 兄弟姉妹が数人あるときは、兄弟姉妹の法定相続分を均分する。 ただし、父母の一方を同じくする兄弟姉妹の相続分は、 父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。 |
相続人が複数いる場合、被相続人は遺言で共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができます(民法第902条)。
(5) 相続の承認と放棄
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければなりませんが、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができます(民法第915条)。
1. 相続の承認
(a) 単純承認
単純承認とは、債務を含めた相続財産の全てを受け入れることで、相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継します(民法第920条)。また、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときや、規定の期間内に相続の放棄又は限定承認をしなかったときは、単純承認をしたとみなされます(民法第921条)。
(b) 限定承認
限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して行う相続の承認です(民法第922条)。限定承認は、相続の開始を知った日から3か月以内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければなりません(民法第915条及び924条)。なお、相続人が数人あると きは、共同相続人の全員が共同してのみ行うことができます(民法第923条)。
2. 相続の放棄
相続の放棄とは、債務を含めた相続財産の全ての承継を拒否することをいいます。相続の放棄は、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に相続を放棄する旨の申述をして行います(民法第915条及び第938条)。基本的に、相続の放棄は撤回することはできません(民法第919条第1項)。