【タイの電子署名制度と活用における課題 】

タイにおける電子署名を規律する法律としては、2001年電子取引法(Electronic Transactions Act, B.E. 2544(2001))があります。また、2019年電子取引法(Electronic Transactions Act (NO.3), B.E.2562(2019))によりその規定の一部が改正されています。タイでは、法律上の要件を満たせば電子署名は有効とされています。

(1) 電子署名の定義

電子署名は、「署名をした特定の人物がそのデータメッセージに含まれる情報を承認したことを示すことを目的とした、電子形式で作成された、文字、数字、音、またはその他の記号であり、署名者とデータメッセージの関連性を確立するものである」と定義されています(2001年電子取引法4条)。

(2) 電子署名の有効性

電子署名の有効性については、2001年電子取引法9条および26条に定められており、規定の要件を満たした場合に電子署名が有効であると解されます。

以下の場合に、電子署名がなされたとみなされます(同法9条(2019年電子取引法7条))。

i 署名者を識別し、データメッセージに含まれる情報に関する署名者の意図を示すことができる方法が使用されていること

ii 以下のいずれかの方法が使用されていること

(a)関連する合意を含む周辺状況を考慮して、データメッセージが生成または送信された目的のために適切であると信頼できる方法

(b)署名者を特定し、iに基づいて署名者の意図を示すことが、それ自体で、または追加の証拠とともにできるその他の方法

以下の要件を満たす電子署名は、信頼できる電子署名であるとみなされます(同法26条)。

ⅰ 作成された電子署名が、その使用された文脈において、他者に紐づけられることなく、署名者本人に紐づけられていること

ii 作成された電子署名が、電子署名の作成時において、他者の管理下になく、署名者本人の管理下に置かれていたこと

iii 電子署名の作成後に生じた変更を検出できること

iv 法律上の要件として、電子署名が情報の完全性を保証するものであることを定めている場合において、電子署名作成時以降の情報の変更が検証できること

    (3)電子署名が認められる文書の範囲

一般的には、電子署名は幅広い範囲で認められています。

2001年電子取引法では、法律上、書面が求められる場合であっても、情報が、その意味を変更することなく後で参照するためにアクセス可能で使用可能なデータメッセージの形式で生成された場合には、法律で要求される書面で作成されたとみなされる旨規定されています(同法8条(2019年電子取引法6条))。

もっとも、いくつか例外があり、法律上書面が要求される文書、たとえば、不動産売買契約、3年を超える賃貸期間の不動産賃貸借契約、抵当権設定契約等については、電子署名を使用することができません。

また、一部の大規模な民間企業や歳入庁などの政府機関は、サービスプロバイダー(2001年電子取引法28条)によって認証された電子署名のみ認められているため注意が必要です。

(4) その他の電子署名の使用の注意点

電子署名の署名者は、電子署名作成に使用したデータが許可なく使用されないよう合理的な注意を払うこと、電子署名作成に使用したデータが消失、損壊、変更、不正に公開された、または漏洩した場合には、電子署名によって何らかの行為を行う者に対して通知すること等の義務が課されるため注意が必要です(同法27条)。