マレーシアにおいては、電子署名を規定する法令として、Electronic Commerce Act 2006(以下、「ECA」という)及びDigital Signatureは、Digital Signature Act1997が存在します。本稿では、より利用者が多いと考えられるECAに基づく電子署名について紹介します。
(1) 電子署名の定義
ECAにおいては、electronic signature(以下「eSignature」という)は、人が署名として採用する電子的な形式で作成された文字、記号、数字、音、その他の符号、又はそれらの組み合わせと定義しています(ECA5条)。
(2) 電子署名の有効性
ECA9条1項では、法的に文書に署名を要求する場合、当該文書が電子文書の形式であれば、以下の要件を満たす場合にeSignatureが有効となると規定しています。
- 電子文書に添付されるか、又は論理的に関連付けられている
- 署名者個人を適切に識別し、かつ、署名に関連する情報に対する署名者個人の承認を適切に示していること
- eSignatureが必要とされる目的及び状況を考慮して適切に信頼できるものであること
また、ECA9条2項では、上記③のeSignatureが信頼性を有する場合の要件を以下の通り規定しています。
- eSignatureの作成手段が署名する人物にのみ関連付けられ、その者の管理下にあること
- 署名後に加えられた当該署名に対するいかなる修正も検知可能であること
- 署名後に加えられた文書に対するいかなる修正も検知可能であること
9条2項②③の署名後の署名又は電子文書に対する修正(偽造)への検知可能性の要件については、どのような制度を設ければよいのか法令上明確ではありません。この点についての行政の正確な解釈を確認することは難しく、マレーシアローカルの法律事務所が執筆したECAに関する記事によると、署名後の偽造防止機能を有するソフトを導入している場合は、当該要件を満たすのではないかと記載するものがあります。また、同記事では、電子文書にPDFの署名を添付するだけでは不十分ではないかとも記載しています。ECAの要請に基づき署名の信頼性を担保するため、偽造防止又は署名後の修正を検知できる機能を有するソフトを導入することが望ましいといえます。
(3) eSignatureを使用できない文書
ECA2条及びScheduleにて、委任状、遺言、信託、有価証券には適用されないと規定しています。