「マレーシアの労働災害に関する法制度の概要」

マレーシアでは、労働災害に関する法令として労災給付制度を定めた労働者社会保障法(The Employees’ Social Security Act 1969)があります。

(1) 概要

労働者社会保障法は、怪我等の理由で就労ができなくなった場合の収入の填補について規定しています。同法に基づく労働者社会保障制度はSOCSO(Social Security Organization)によって運用されています(同法58条)。

同法は、以下の2つの制度を提供しています。

  1. 雇用傷害(Employment Injury)保険制度:業務上の負傷及び疾病に対する給付
  2. 障害年金(Invalidity Pension)制度:業務と関係のない負傷及び疾病に対する給付

(2) 加入義務者

使用者は同法に基づき自身とその労働者(雇用契約又は見習契約に基づき就労する全ての者)の登録を行わなければなりません(同法4条、5条)。家事労働者を除く外国人労働者も加入義務の対象です。

本制度の対象者は2つのカテゴリーに分けられます(同法6条2項)。

  1. 第一カテゴリー:雇用傷害保険制度及び障害年金の被保険者たる労働者
  2. 第二カテゴリー:雇用傷害保険制度の被保険者たる労働者

(3) 給付内容

同法では以下のとおり給付内容が定められています(同法15条)。

 ア 障害年金(Invalidity Pension)

医療委員会から(永続的な)就労不能との認定を受けた被保険者に対する定期給付です。

 イ 障害手当(Disablement Benefit)

業務上の負傷に起因する障害(Disable)を受けた被保険者に対する定期給付です。

この手当には、以下の種類があります。

  1. 一時障害手当
  2. 永続的部分障害手当
  3. 永続的全部障害手当

使用者は、労働者が一時障害手当を受給している期間中は、労働者を解雇又は罰することができず、同期間中になされた解雇、減給に関する通知は無効であり効力を有しないとされています(同法53条)。

 ウ 遺族手当(Dependants’ Benefit)

業務上の負傷の結果死亡した被保険者の遺族に対する定期給付です。

    エ 葬儀手当(Funeral Benefit)

業務上の負傷により被保険者が死亡した場合、受給権を有する近親者に支払われます。

 オ 継続看護手当(Constant-Attendance Allowance)

障害年金又は永続的全部障害手当の受給権を有する労働者は、その不能の程度が著しく他の人間の継続的な看護を必要とする場合、それぞれの給付の40%に相当する継続看護手当を受給することができます。

 カ 医療手当(Medical Benefit)

業務上負傷した労働者の治療費等の給付です。

 キ 遺族年金(Survivors’ Pension))

障害年金の受給中に亡くなった労働者等の遺族に対して支払われる定期給付です。

(4) 使用者の責任

一般的に、使用者が職場における安全性の確保に関する義務を怠り、その結果労働者が負傷し損害を負った場合、労働者は使用者に対して損害の賠償を求めることができますが、同法31条本文は、労働者は同法に基づき補償される雇用契約上の受傷については使用者から損害の賠償を受ける権利を有しない旨を定めています。したがって、職場における事故を理由に労働者が使用者に対して損害の賠償を求める事例は多くはないと考えられます。

ただし、同条ただし書は、同条本文の例外として、道路輸送法(Road Transport Act 1987)により使用者に第三者賠償保険加入が義務付けられている自動車の事故に起因する請求については同条本文を適用しない旨を定めているため、この場合には、労働者は使用者に対して損害の賠償を求めることができるとされています。