「タイの不法行為法の概要」


 タイ民商法典(Civil and Commercial Code(以下、CCC))では、420条に不法行為の規定が存在します。

同条は、「故意又は過失により、他人の生命、身体、健康、自由、財産又は何らかの権利を違法に侵害した者は、不法行為を犯したものとみなし、不法行為によって生じた損害を賠償する義務を負う。」としており、日本の不法行為の規定とほぼ同じ内容となっています。また、その他の不法行為法の規定についても日本法と類似点が多く、比較的日本人に馴染みやすいものになっています。

 以下はタイ法と日本法の不法行為法の相違点に焦点を当て、紹介いたします。

(2) 賠償の方法と相殺の可否

 損害賠償の方法や範囲について、CCCでは、不法行為の状況や重大性に応じて、裁判所が合理的に決定し、不法行為により奪われた財産の返還又はその財産の価額賠償、不法行為によって生じた損害賠償を行うとしています(CCC438条)。

 また、CCC345条によると、不法行為によって債務が発生した場合、債務者は債権者に対して相殺を対抗することはできないとしています。日本法では、不法行為によって生じた債権について相殺が可能である場合がありますが、タイ法にこのような限定はなく、文言上は、不法行為に基づく債務であれば、損害の内容を問わず、債権者に対して相殺を対抗することができないと解されます。

(3) 不法行為の時効

 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が不法行為及び賠償義務者を知った時から1年が経過した場合、又は、不法行為日から10年が経過した時と規定されています。ただし、刑罰で処罰される行為を原因とし、かつその行為の刑事手続き上の時効期間が10年よりも長期である場合、その長期の時効期間を適用することになります(CCC448条)。

(4) 使用者責任と委託者の責任について

 タイでは、使用者の責任について「使用者は、被用者が職務の過程で犯した不法行為について、被用者と共同して責任を負う」(CCC425条)としています。日本法では、使用者が被用者の選任や事業の監督について相当の注意を払ったとき、又は相当の注意をしても損害が生じたであろう場合には使用者の責任が免責されるとの規定がありますが、タイ法にはこのような規定が存在しません。そのため、文言上は、例えば被用者が交通事故を起こし、相手方にけが等を負わせた場合、使用者の監督責任の違反に関わらず、使用者は不法行為責任を負うと解されます。もっとも、被用者の不法行為に対して、使用者が第三者に損害を賠償した場合、その費用を被用者に求償することができるとされています(CCC426条)。

他方、委託者の責任については、請負人が委託された仕事の過程で第三者に与えた損害について、委託者による注文、指示、請負業者の選定に関して落ち度が無い限り、責任を負わないこととされています(CCC428条)。