「ベトナムの不法行為法の概要」

(1) ベトナム民法の不法行為規定の概要

 2015年に制定されたベトナム民法第20章(584条〜608条)には、「契約外の損害賠償責任」として、不法行為に関する規定を置いています。「他人の生命、健康、名誉、人格、威信、財産、権利、その他の合法的な利益を侵害して損害を加えた」場合に損害賠償責任が生じるとされています(民法584条1項本文)。

 また「いくつかの具体的な場合における損害賠償」に関する規定として、

  • 正当防衛の場合
  • 緊急事態の場合
  • 飲酒又はその他の刺激物を用いて行為認識制御能力を失った状態で不法行為を行なった場合の責任
  • 法人の従業員が加害者である場合の法人の責任
  • 公務執行者が加害者である場合の国家の責任
  • 15歳未満の者、民事行為能力喪失者が加害者である場合の管理者の責任
  • 個人、法人の被用者、実習生が加害者である場合の個人・法人の責任
  • 交通輸送手段、送電システム、製造工場、武器、爆発物、可燃物、毒物、放射物、猛獣等の高度危険源の所有者、占有者、使用者の責任
  • 環境汚染を発生させた者の責任
  • 動物の所有者、占有者、使用者の責任
  • 樹木の所有者、占有者、管理者の責任
  • 住居その他の建築物の所有者、占有者、管理者、使用者の責任
  • 死体を侵害した個人、法人の責任
  • 墓を侵害した個人、法人の責任
  • 消費者の権利を侵害した個人、法人の責任

といった規定をおいています(民法594条〜608条)。

(2) 無過失責任の原則

 日本民法における不法行為責任は過失責任の原則(故意過失がなければ不法行為責任を負わないという原則)が採用され、また、加害者に故意過失があることの立証責任は被害者側にあるとされています。しかし、ベトナム民法では、加害者に故意過失がない場合であっても損害賠償責任を負うとされ(584条1項本文)、生じた損害が不可抗力による場合又は完全に被害者の故意過失による場合には損害賠償責任は負わないとされています(民法584条2項本文)。すなわち、ベトナム民法の不法行為責任は無過失責任の原則が採用され、自己に故意過失がない場合であっても、損害が不可抗力によって生じたものであること、又は完全に被害者の故意過失によって生じたものであることを立証できなければ、損害賠償義務を負うことになります。