日本の不法行為にかかる法規定は、民法(明治29年法律89号)第3編第5章に一般的に規定されるとともに、個別の不法行為の類型によって特別法での規定が設けられるという構造を有しています。以下では、民法の規定と、事業者に関連する主な特別法における規定について紹介します。
- 民法
(a) 一般規定
民法第709条は、不法行為について、故意または過失により他人の権利または法律上保護さる利益を侵害することとし、それによって損害が生じた場合に、賠償責任を課すことを規定しています。
損害の対象は、財産以外の身体、自由、名誉等にも及び(第710条)、生命の侵害については、被害者の父母、配偶者及び子に対しても損害賠償を負い(第711条)ます。また、胎児にも損害賠償の権利が認められています(第721条)。
加害者は、事理弁識能力を有していることが要件とされます(第712条、第713条)。
正当防衛及び緊急避難による物の損傷に関しては、損害賠償を免除されます(第720条)。
(b) 特別規定
実際の加害者の他に、責任無能力者の監督義務者(第714条)、事業従事者の使用者及び監督者(第715条)、請負人への指図に過失のある注文者(第716条)、土地の工作物の占有者及び所有者(第717条)、動物の占有者(第718条)に対して、損害賠償義務が課されます。
また、不法行為が共同で行われた場合には、加害者各自が連帯責任を負い、教唆者や幇助者も共同行為者とみなされます(第719条)。
(c) 消滅時効
不法行為による損害賠償請求権は、損害および加害者を知ったときから3年間(ただし、生命または身体への侵害に関する損害については5年間)、不法行為時から20年間で時効により消滅します(第724条、第724条の2)。
(2) 特別法
(a) 自動車損賠賠償保障法(昭和30年法律第97号)
加害者である自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)に対して、民法とは異なり、自ら及び運転者の注意義務違反の不存在やその他の免責事由の立証責任を転嫁しています(第3条)。
(b) 製造物責任法(平成6年法律第85号)
民法とは異なり、故意や過失を要件とせずに、製造物の欠陥によって生命・身体・財産に損害が生じた場合に、製造業者・輸入業者・製造業者であるとの表示をした者等に賠償責任を課し(第3条)、開発危険の抗弁(第4条第1号)や欠陥が製造者の指示に従ったことにより生じ、その欠陥の発生に過失がない場合にのみ免責される規定となっています。ただし、製造物引渡から10年で消滅時効が成立する点については、民法よりも軽減されています。
(c) 鉱物法(昭和25年法律第289号)
鉱物の採掘のための土地の掘削、坑水若しくは廃水の放流、捨石若しくは鉱滓の堆積または鉱煙の排出によって、人に損害を与えた場合に、損害発生時の鉱業権者に対して、無過失責任を課しています(第109条第1項)。ただし、被害の発生や拡大に関して、被害者に帰責性が認められる場合や天災その他の不可抗力が競合したときには、賠償責任の有無及びその範囲を定めるにつき斟酌することができるとされています(第113条)。また、鉱業に従事する者の業務上の負傷、疾病及び死亡には適用されません(第25条の5)。
(d) 大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)
工場または事業場における事業活動に伴う、ばい煙、特定物質または粉塵等の健康被害物質により、生命または身体に損害を生じた場合、事業者に対して無過失責任を課しています(第25条第1項)。ただし、不可抗力の斟酌(第25条の3)、事業従事者への不適用(第25条の5)の規定があります。
(e) 水質汚濁防止法(昭和45年法律第138条)
工場または事業所における事業活動に伴う有害物質の汚水または廃液に含まれた状態での排出または地下への浸透により、生命または身体に損害を生じた場合、事業者に対して無過失責任を課しています(第19条第1項)。不可抗力の斟酌(第20条の2)や事業従事者への不適用(第20条の5)の規定があります。
(f)私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)
独占禁止法に違反する私的独占、不当な取引制限または不公正な取引方法を行った事業者は、被害者に対し、損害賠償責任を負い、故意や過失の不存在の証明により免責されません(第25条)。ただし、被害者は、公正取引委員会による排除措置命令または納付命令の確定後にしか、裁判上の主張をすることができず、その確定日から3年で請求権は消滅時効にかかります(第26条)。