タイの営業秘密については、営業秘密法に規定があります。
同法3条は営業秘密について、「営業秘密とは、まだ一般に公表されていない営業情報、またはその情報に通常触れられる者にまだ届いていない営業情報をいう。また、当該情報が秘密であることにより商業的価値をもたらし、営業秘密管理者が機密を保持するために適当な手段を採用していなければならない。」と定義しています。
(1) 営業秘密の要件
タイの営業秘密に該当するためには、以下の3つの要件に該当する必要があります。
① 秘匿性
② 有用性
③ 秘密管理性
まず、①要件を満たすためには、当該情報が一般に知られていないまたは情報を入手できる状況になっていないことが必要であり、日本の営業秘密の要件の一つである「非公知性」に似た概念であるといえます。
次に、②要件を満たすためには、当該情報を秘密に保つことで商業的価値をもたらしていることが必要であり、こちらも日本の有用性要件に似た概念であるといえます。
もっとも、日本においては秘密管理性および非公知性が認められれば、公序良俗に違反する情報等でない限り、有用性要件が認められる一方、タイの裁判においては、当該情報を秘密にしておくことで商業的価値が生じるかどうかを実質的に考慮するなどして、その判断基準に違いがあります。Googleマップの店舗情報について、有用性が認められるかという最高裁判例においては、店舗情報とはむしろ公開されることにより、商業的価値が生じるものであるとして、有用性要件について否定しています。
最後に、③要件を満たすためには、当該営業秘密を保護するために、充分な秘密保護措置が取られている必要があります。タイで裁判の争点になることが多いのは同要件であり、保護したい情報については、社内規定や就業規則などによって事前にルールを作成しておく必要があります。また、ルールを作成しておくだけではなく、従業員への研修や監査を通じてそのルールの運用が正確になされている必要があります。この点については、就業規則に一般的な守秘義務を規定していたとしても、同要件を満たすことにはならないとした最高裁判決も存在しています。
なお、充分な秘密保護措置が取られているか否かについて、絶対的な基準はなく、会社の規模や職種等を総合的に考慮し、相対的に決定されます。
以上のように、営業秘密該当性については、日本とタイは非常に類似した構成をとっています。もっとも、各要件の判断基準については、異なる点も多いため、その取扱いについては注意する必要があります。
(2) 営業秘密侵害行為
営業秘密侵害行為について同法6条は「営業秘密の侵害行為とは、営業秘密を保有する者の許可なく、秘密を開示し、使用する行為であって、不当な商業手法であるものをいう。ただし、侵害者において不当な商業手法であるとの認識または認識することが相当であると認められる事情がなければならない。」と定義しています。
また、同法6条では、契約違反、秘密保持の違反またはその教唆、贈収賄、脅迫、詐欺、窃盗、盗品の譲受、電子その他の手法を使った諜報活動を「不当な商業手法」として、例示列挙しています。
(3) 侵害行為に対する措置
上記のような営業秘密の侵害行為があった場合または現に行われようとしており、かつ明確な証拠がある場合には、差し止め請求や損害賠償請求をすることができます。同請求の中では、侵害組成品の破棄または所有権の移転を求めることができます。
また、侵害者に対しては両罰規定も含む刑事罰も存在しています。