「フィリピンの営業秘密の保護に関する法制度の概要」

  1. フィリピンにおける「営業秘密」の定義

まず、フィリピンにおいて、「営業秘密」を直接定義する法令は見当たらず、非公開情報の一部が、知的財産権に関する法令において、部分的な保護を受けるに留まっています。

他方で、法令において直接定義はされていないものの、フィリピンの最高裁判例には、「営業秘密」に対して保護を与える旨判示したと読めるものが存在します。同判決によれば、「営業秘密」とは、“plan or process, tool, mechanism or compound known only to its owner and those of his employees to whom it is necessary to confide it”であるとされています。これを日本語に訳すると「計画、工程、道具、メカニズム、又は化合物に関する情報であって、所有者又はその従業員のうち、当該情報を開示する必要のある者のみが知っているもの」となります(*筆者訳)が、日本法と比較すれば、やや抽象的な概念に留まっていると考えられます。

もっとも、「所有者又はその従業員のうち、当該情報を開示する必要のある者のみが知っているもの」という部分が示すとおり、当該情報が社内において秘密として扱われている、いわゆる「秘密管理性」の要件については、フィリピン法においても求められていると考えられます。

  1. 「営業秘密」が侵害された場合の救済措置と対応

次に、「営業秘密」が侵害された場合、どのような救済措置や対応方法が考えられるかについて言及します。

まず、契約上で「営業秘密」について言及がある場合は、同契約の文言に基づき、侵害行為を行なっている相手方に損害賠償請求を行うことが考えられます。加えて、⑴で述べた「営業秘密」の定義に該当するような場合は、知的財産に関する法令に基づき権利侵害を主張したうえで、差止請求の手続をとることも検討できます。

また、従業員が「営業秘密」を漏洩したケースに限定されますが、雇用契約関係がある場合は、従業員に対して情報漏洩行為を指摘し、懲戒処分や懲戒解雇を行うことも考えられます。

  1. 「営業秘密」の侵害に備えた予防的法務

最後に、「営業秘密」の侵害に備えて企業がとりうる予防的法務対応について述べます。

フィリピンにおいて「営業秘密」を適切に守るためには、情報のやり取り前にNDAを締結すること、取引に関する契約書に営業秘密侵害の場面を想定した条項が入っているか確認すること、従業員との雇用契約に営業秘密についての条項が入っているか確認すること等の対応が挙げられます。また、牽制的な位置付けにはなりますが、従業員の営業秘密漏洩行為は犯罪行為として規定されていますので、この旨を企業内で周知することも予防法務の観点から一定程度効果があるものと考えられます。