(1) 概要
日本でいう「営業秘密」に近い概念として、メキシコでは連邦産業財産権保護法(Ley Federal de Protección a la Propiedad Industrial、以下、「産業財産権保護法」という。)に規定される「Secreto Industrial」が挙げられます。その定義や違反行為、罰則等の規定はあるものの、特許や商標といった産業財産権のように、登録制度等はありません。
(2) 定義
産業財産権保護法において、Secreto Industrial(以下、「営業秘密」という。)は、「その法的管理を行使する人が秘密に保つ産業又は商業用途の全ての情報であって、経済活動の遂行において第三者に対して競争的又は経済的優位性をもち、機密性を維持し、アクセスを制限するのに十分な手段又はシステムを採用されている情報」と定義されています。
なお、公知の情報や法令等により開示しなければならない情報は営業秘密に該当しません。また、営業秘密の保有管理者より、ライセンス、許可、承認、登録、又はその他の権限を付与する目的で当該情報が提供された場合には、公知になったとはみなされません。
(3) 営業秘密の保護
先述の定義より、情報が営業秘密とみなされるには、①商業的価値があること、②機密性の維持、③情報に対し機密に保つための合理的措置が施されていることが条件となります。
従って、例えば、競合他社に対して経済的優位性を持つ技術情報がある場合、限られた数の人々だけがその情報を知っていること、そしてそれを知っている人々がその情報が機密情報であることを認識していることが重要となります。更に、そのような情報へのアクセスを制限する措置が取られなければなりません。
また、情報の保有管理者は営業秘密の使用を第三者に許可することができ、この場合は、使用を許可された第三者は、この営業機密を開示してはならない義務を負います。技術提供等の契約書において守秘義務条項を設けることも可能であり、当事者が当該情報を機密であると確認する条項を含める必要があります。更に、雇用や業務委託等の関係において、又は職務に関連し、企業の情報を知り得る者は、秘密である旨を通知された情報については、その保有管理者等の同意を得ずに開示してはならない義務を負います。
従って、営業秘密を機密として保護するためには、機密であることの明示や各種契約書内への秘密保持条項の設定や秘密保持契約書の締結、職場においては、これらに加え就業規則の整備や教育の実施といった措置が必要となります。
(4) 情報漏洩時の措置
営業秘密に関し漏洩が生じた場合、民事的、行政的、刑事的措置をとることができます。
行政的措置については、経済的優位性を獲得するため、又は商慣習に反する行為として、営業秘密を不正に取得することなどについて、利害関係者はメキシコ産業財産庁(Instituto Mexicano de la Propiedad Industrial: IMPI)に対し調査を要請でき、違反と判断された場合は、最大25,935,000ペソの制裁金(2023年の場合)、最大90営業日の施設の一時閉鎖や恒久的閉鎖といった制裁が科される恐れがあります。
刑事的措置については、自身又は第三者のために経済的利益を得る目的又は営業秘密の保有者に対し損害を与える目的で、不当に営業秘密を開示し、無権限に秘密情報を取得、使用、流用等行った場合、犯罪となり得え、利害関係者がIMPIに対し申し立てることにより起訴されます。犯罪が確定した場合は、2年から6年の懲役、103,740ペソから31,122,000ペソの罰金(2023年の場合)が科される恐れがあります。
このほか、刑法211条に依れば、専門的・技術的サービスを提供する者や公務員によって営業秘密が開示された場合、1年から5年の懲役や罰金、該当する場合は、2カ月から1年の職務停止処分が科される恐れがあります。
更に、雇用関係において、労働者による情報漏洩が生じた場合、連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)に基づき、処遇を検討できます。労働者は、技術的秘密や営業上の秘密、製造に直接的又は間接的に関与する場合のその製品の秘密情報、その他業務の遂行上知り得る情報について、その開示が会社に損害を与える可能性がある場合、その情報を機密に保持する義務を負うため、労働者が企業秘密や守秘義務を負う情報について漏洩した場合には、使用者は責任を負うことなく、当該労働者を解雇することが可能となります。
民事的措置として損害賠償請求を行うことも可能です。先述の各事項のほか産業財産権保護法167条は、企業秘密を取得する目的で、その秘密を保有する他者の従業員又は元従業員、当該他者にサービスを提供する、又は過去に提供したことのあるコンサルタント等を雇用し又は業務を委託する者は、法的責任を負うと規定することから、情報漏洩を行った本人のほか、企業秘密を取得する目的で雇用等を行った者に対しても損害の賠償を請求できる可能性があります。