「タイの労務紛争解決手段の概要」

(1) 労働紛争解決手段について

タイの労働紛争解決手段のうち、労働者が労働問題に関する申立てを行う手段としては、労働監督官への申立て、労働関係委員会への申立て、労働裁判所への提訴の 3 つが考えられます。

(2) 各手続きの概要

  1. 労働監督官への申立て

使用者が労働者保護法に定める金銭の受領にかかる権利について違反または履行しなかった場合において、労働者は、労働者の就業場所または使用者の居住地の労働監督官に対し、申し立てを行うことができます。同申立てが行われた後、労働監督官による事実調査が行われ、労働者に金銭を受領する権利があると判断した場合には、監督官は使用者に対し、当該金銭を支払うよう命じることになります。 使用者が同命令に不服がある場合には、命令を知った日から 30 日以内に労働裁判所に訴訟を提起することが可能です。

  1. 労働関係委員会への申立て

使用者が労働者の労働組合員としての活動を不当に妨害した場合において、労働者は当該行為があった日から 60 日以内に労働関係委員会に申し立てを行うことができます。当該申立てを行った後、労働関係委員会は審理を行い、使用者に命令を下すことになります。

同命令に対し、不服がある場合には、同委員会に異議申し立てを行うことができ、同異議に対する委員会の決定に不服がある場合に、労働裁判所への異議申し立てを行うことが可能です。

  1. 労働裁判所への提訴

タイでは、一般民事を取り扱う裁判所は別に労働裁判所が設置されています。タイの労働裁判は、裁判官

と補助官によって実施されます。補助官とは、裁判官とともに職務を遂行するため特別に選任された者であり、日本の労働審判員と似た制度です。補助官は使用者側、従業員側に区別され、必ず同数とされます。

したがって、タイの労働裁判は、通常、裁判官 1 名、補助官 2 名(使用者側 1 名、従業員側 1 名)合計 3 名という構成で実施されることが一般的です。訴訟提起後、第 1 回期日では、和解の機会が持たれることが通常であり、和解がまとまりそうであれば、その後、第 3 回期日までは、和解期日として設定されることが一般的です。

なお、タイでは、労働裁判所への提起が無料であり、かつ法律の知識が無い者に対しては、裁判所の職員が訴状作成の手助けをしてくれるため、労働者にとっては労働裁判を提起することへのハードルは低く、使用者にとっては訴訟を提起されるリスクは日本に比べて高いといえます。

(3)その他の手段

その他の労働者が取りうる手段として、団体交渉があります。

同手続きは、労働者または使用者が相手方に対し、要求書を提出することから開始します。その後、3 日以内に交渉が合意に達しなかった場合には、労働争議が発生したとみなされ、労働争議調停官への通知を行います。労働争議調停官は 5 日以内に合意のために調停を行い、調停が成立しない場合には、労働争議仲裁

やストライキやロックアウト等の争議行為に移行することになります。