(1) 賞与の法的性格
賞与については、その支払いの有無や金額が、まったく使用者の裁量に委ねられているものは、単なる恩恵的給付であり賃金には当たらないと解されています。
他方で、就業規則等において、支給基準等が定められている場合には、労働の対償としての賃金であり、所定の支払基準等の下で使用者に支給義務があるとされます。この点、労働基準法11条も、賃金の定義について「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」としているところです。
賞与については、ほとんどの企業において給与規定等に賞与制度が定められていることが通常であり、恩給的給付として解し得る賞与は実際には稀であると考えられます。
(2) 賞与の支給日在籍要件について
賞与については、査定対象期間の一部または全部に勤務していても賞与の支給日に在籍していない者には賞与を支給しないという取扱い(支給日在籍要件)をする例も珍しくありません。通常の賃金であればこのような取扱いは許されないところ、賞与が賃金であるならば、賞与の支給日在籍要件は有効といえるのでしょうか。
この点、裁判例では、支給日在籍要件を有効とする例が複数見られます。退職日を自ら選択できる自主的退職の事案で支給日在籍要件を有効としたものとしては、最高裁昭和57年10月7日判決(大和銀行事件)等があります。また、退職日を自ら選択できない定年退職の事案で有効性を認めた東京地裁平成8年10月29日判決(カツデン事件)等の例もあります。現実にも多くの企業では、就業規則等に支給日在籍要件を定めています。