「インドにおける懲戒処分の種類・内容・手続きに関する法規制の概要」

インド労働法は、懲戒処分の規定を設けていません。1947年インド産業雇用(就業規則)法(Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946)(以下、「産業雇用(就業規則)法」)4条及び同法スケジュールでは、解雇、停職に関する懲戒処分及び当該懲戒処分の対象となる非違行為を構成する作為又は不作為を就業規則の必要的記載事項としています。したがって、懲戒処分は就業規則に記載された事由に基づいて行われる必要があります。懲戒処分は、使用者から労働者へ書面による非違行為の通知、労働者の防御のための聴聞の機会が与えられ、記録された証拠に基づいて処分の正当性が決定される必要があります。こうした手続は、判例法に基づく原則 (Principles of Natural Justice) からの要請であり、非違行為の存在を認識したからといって手続を経ずに懲戒処分を行った場合、当該懲戒処分が違法無効となる可能性があります。

もっとも、産業雇用(就業規則)法は、 100人以上のワークマンを雇用している事業場に適用されます(マハラシュトラ州、グジャラート州、カルナータカ州、ハリヤナ州では、州法により50人以上のワークマンが雇用されている産業施設に適用されます)。ワークマンとは、雇用又は報酬を得るため、肉体労働、非熟練労働、熟練労働、技術労働、作業労働、事務労働、又は監督労働を行うために雇用される者(見習いを含む)をいい、主に1万ルピー以上の賃金を得て管理・監督の立場で雇用されている者は含みません(1947年産業紛争法(Industrial Disputes Act, 1947)2条)。

産業雇用(就業規則)法上、就業規則の作成が義務ではない事業場であっても非違行為を理由に労働者に不利益を科す処分については、判例法上の原則が適用されると考えられます。したがって、法令上の就業規則の作成義務に関わらず、全ての会社において、就業規則を策定し、懲戒処分に関する規定を定め、当該規定に従って懲戒処分を行うべきといえます。