(1) 懲戒処分の種類
従業員の懲戒処分について規定する法令は雇用法(Employment Act 1955)です。同法14条によれば、従業員が非違行為(misconduct inconsistent)を行った場合、使用者は、当該非違行為の事実について適正な調査を行った上、当該従業員に対して、懲戒処分を行うことができます。
雇用法上想定されている懲戒処分には、①予告期間を設けない解雇、②降格、③2週間を超えない無給停職その他の適切な処分(ただし、解雇・降格より緩やかな処分)があります(雇用法14条⑴(a)~(c))。
(2) 適切な懲戒処分の選択
どのような懲戒処分が当該従業員にとって適切であるのか、使用者は慎重に検討する必要があります。とりわけ、懲戒解雇を選択するような場合には、より慎重な判断が必要となります。すなわち、マレーシアにおいても、従業員に対する解雇が有効となるためには、解雇することについて正当な事由(just cause or excuse)が必要であるとされています。
また、非違行為には、犯罪行為のほか、職務命令違反、常習的な遅刻・欠席、セクシュアルハラスメント等多岐にわたり、会社に対する不利益の程度も様々です。使用者としては、従業員の非違行為の内容、動機、当該非違行為により会社が被った不利益等事情を総合考慮した上、適切な懲戒処分を選択する必要があります。これらの事情に比して懲戒処分の内容が重すぎる場合、当該懲戒処分が無効となる可能性があります。
(3) 懲戒処分を行うために必要な手続
使用者が懲戒処分を実施するためには、当該処分の前に、due inquiryと呼ばれる社内審問手続を実施しなければなりません(雇用法14条⑴柱書)。ところが、会社がdue inquiryとして、具体的にどのような手続を実施すればよいかについては、雇用法上明確に規定されてはいません。
実務上は、当該非違行為の有無を調査のうえ、当該従業員に問題となっている非違行為の具体的内容を通知するとともに、理由提示命令書を送付する等により、当該従業員に対して弁明の機会を付与すべきとされています。
このような手続に瑕疵があると、懲戒処分自体が無効となる場合があります。裁判例には、懲戒解雇を正当化できるだけの重大な非違行為があったとしても、適切な時期に警告等を行わなかったことを理由として、または、due inquiryが適切に行われなかったことを理由として、当該解雇の効力を否定したものがあります。
(4) 解雇手当について
雇用法上、従業員を解雇する場合には、使用者は12か月以上継続して雇用した労働者との間の雇用契約を終了させる場合、原則として勤務年数に応じた解雇手当を支払う必要があります(雇用規則3条1項)。もっとも、適切なdue inquiryを行った上、雇用契約の明示又は黙示の条件に反する労働者の不正行為に基づき使用者が雇用契約を終了させた場合には、当該解雇手当の支払は免除されます(雇用規則4条以下)。