「タイにおける懲戒処分の種類・内容・手続きに関する法規制の概要」

(1) 懲戒処分の種類

労働者の懲戒処分に関しては、労働者保護法に規定があります。同法には懲戒解雇等の規定はあるものの、懲戒処分の種類や手続き等に関して法令上の明確な定めはありません。そのため、タイの実務上は、懲戒処分の種類や手続きに関して、自社の就業規則において記載するケースが多く見られます。

タイの実務上、一般的に行われている懲戒処分として、口頭または書面による警告、停職、普通解雇(解雇予告や解雇補償金の支払いを伴う解雇)、懲戒解雇(解雇予告や解雇補償金の支払いなく行う解雇)が挙げられます。その他、会社内の就業規則において、懲戒処分としての減給を定めている会社も見受けられますが、減給処分については、労働者保護法に反するという見解もあり、注意が必要です。

(2) 懲戒処分の手続きについて

前述のように、労働者保護法上、懲戒処分の手続き等を定めた明文規定は存在しません。そのため、懲戒処分の手続きは、会社と労働者間の契約内容や就業規則の定めによることとなるため、就業規則中では、何が懲戒事由にあたるかを具体的に定め、懲戒を行う際の手続きも明確化しておくことが大切です。

(3) 懲戒解雇について

通常、労働者を解雇するにあたっては、事前の解雇予告(労働者保護法17条2項)と解雇補償金の支払い(同法118条)が必要です。もっとも、解雇理由が、労働者保護法119条1項所定のいずれかに該当する場合には、事前の解雇予告と解雇補償金は不要とされています。同条の定める非違行為は以下のとおりです。

① 職務上の不正または使用者に対する故意の犯罪行為。

② 故意に使用者に損害を与えた場合。

③ 過失により使用者に重大な損害を与えた場合。

④ 使用者が文書で警告したにもかかわらず就業規則、社内規定、使用者の合法的な命令に違反した場合。ただし、重大な違反の場合は警告を要しない。文書の有効期限は、労働者が違反行為を行った日から1年間である。

⑤ 正当な理由なく、間に休日を挟むか否かを問わず、三日間連続して職務を放棄した場合。

⑥ 最終判決で禁固刑を受けた場合。(ただし、過失犯や軽犯罪の場合は使用者に損害を与えた場合に限る。(同条2項))

なお、労働裁判においては、タイの裁判所は労働者側に有利に判断する傾向にあり、労働者側が不当解雇であると主張するケースは少なくありません。労働者側から、後に、不当解雇であると主張されるリスクを減らすためにも、懲戒解雇を行うにあたっては慎重に準備を進めておくことが必要です。