(1) 概要
メキシコにおける意匠制度は、産業財産権法(Ley Federal de Protección a la Propiedad Industrial)によって規定されています。その中で意匠は、「装飾目的で工業製品または手工芸品に用いられ、独特で適切な外観を与える図形、線、または色の任意の組合せである工業図案、および工業製品または手工芸品を製造するための型または図形として機能する任意の立体で構成される工業用型であり、技術的な効果をもたない特別な外観を与えるもの」と定義されています。
意匠権の存続期間は出願日から5年間であり、所定の更新手続および更新料の納付により、5年ごとの延長が可能です。ただし、存続期間の上限は最大25年間とされています。更新は、各存続期間満了の6か月前から行うことができます。
メキシコは、1976年にパリ条約に加盟しており、これに基づく優先権主張が可能です。優先日(基礎出願日)から6か月以内であれば、優先権を主張しての出願が認められます。また、2020年6月にはハーグ協定(ジュネーブ改正協定)がメキシコにおいて発効しており、これにより国際意匠登録出願の指定国としてメキシコを選択することも可能となっています。
(2) 登録手続
意匠登録出願の手続は、原則として特許に関する規定が準用されており、出願、方式審査、出願公開、実体審査、登録という流れで進められます。願書に添付する意匠の図面や写真、説明文には、所定の要件が定められています。特許出願と異なり、方式審査を通過した意匠出願は早期に公開されますが、出願人からの早期公開請求は認められていません。
メキシコでは一意匠一出願制が採用されており、単一の意匠または関連する一つの意匠群として出願する必要があります。仮に一つの出願に複数の意匠が含まれる場合であっても、それらが同じ名称で識別でき、共通して新しい特徴を提示し、全体として同一の一般的印象を与える場合には、単一の意匠とみなされます。
(3) 意匠権侵害
意匠権の侵害行為には、意匠登録の対象となる製品を、権利者またはライセンス保持者の同意なく製造・制作する行為のほか、登録された意匠が用いられた製品を無断で販売・流通・使用する行為が含まれます。また、登録意匠と実質的に同一と認められる意匠を、許諾なく使用する行為も侵害に該当します。
このような権利侵害は行政違反とされており、権利侵害を犯した者には、最大でUMA(罰金等の金額算定にあたり参照する経済的基準)の25万倍の制裁金、最大90営業日の施設の一時閉鎖や恒久的閉鎖といった制裁が科される可能性があります。なお、こうした行政制裁が科された場合でも、権利者は別途、損害賠償を請求することが可能です。