「フィリピンにおけるインサイダー取引規制の概要」

(1) インサイダー取引とは

 インサイダー取引とは、「インサイダー」(Insider)が「重要な未公表情報」(material nonpublic information)を保有した状態で、証券を売買する行為をいいます。

 「重要な未公表情報」とは、以下のいずれかに該当する情報を指します。

・ 一般に公表されておらず、かつ公表された場合に市場が当該情報を消化する合理的な時間を経た後、当該証券の市場価格に影響を及ぼすと合理的に考えられる情報

・ 当該証券の「買い」「売り」または「保有」を判断するにあたり、通常の合理的な投資家であれば重要と判断するであろう情報

 また、「インサイダー」とは以下の者を指します。

・ 発行体

・ 発行体の取締役、役員、または発行体を支配している者、発行体によって支配されている者、発行体と共通の支配下にある者

・ 発行体または証券に関する重要な未公表情報にアクセスできる関係者

・ インサイダーから重要な未公表情報を得た者であり、当該情報源がインサイダーであることを知る者

・ インサイダーの配偶者(内縁を含む。)および姻族、または二親等以内の親族

(2) インサイダー取引に関連する規制行為

 インサイダー取引に関連して、以下の行為が規制されています。

・ 重要な未公表情報を保有した状態での売買

 株主が重要な未公表情報を保有している状態で証券を売買することは違法とされます。ただし、以下のいずれかが証明されれば違法性が否定されます。

  1. 当該情報がインサイダーから得たものでないことが証明された場合
  2. 取引相手が特定されており、インサイダーがその相手に当該情報を開示していた等、その相手も当該情報を保有していたことが証明された場合。

・ 重要な未公表情報の伝達(Tipping)

 インサイダーが重要な未公表情報を第三者に伝達し、その第三者が当該情報を保有した状態で証券取引を行う可能性があることを知っていた、または予見できた場合、そのような伝達行為は違法とされます。

・ 株式公開買付けに関して未公表情報を利用した取引

 株式公開買付けに関連する重要な未公表情報を以下のいずれかの者から取得し、かつ当該情報が未公表であることを知っていた、またはその可能性を認識していた者は、当該証券を売買することは違法とされます。

  1. 株式公開買付けを行う者
  2. 株式公開買付けを行う者の代理人
  3. 発行体
  4. 発行体のインサイダー

(3) 民事責任

 規制行為に違反した者は、その期間に同一の証券を売買した投資家に対して、民事上の賠償責任を負います。ただし、以下の事実を証明できれば責任を免れることができます。

・ 投資家が当該情報を知っていたこと

・ 仮に投資家が当該情報を知らなかったとしても、同じ価格で売買を行っていたであろうこと

また、重要な未公表情報を伝達した者も、当該情報に基づいて取引を行った者と連帯して責任を負います。

⑷ 刑事罰

 違反行為をした者は、以下の罰則を受けるおそれがあります。

・ 5万ペソ以上500万ペソ以下の罰金

・ 7年以上21年以下の懲役

 なお、違反者が法人である場合、当該法人だけでなく、その違反に関与した役員にも罰則が科される可能性があります。