「従業員が不正を行った場合の法的対応について(タイ)」

(1) 事実の調査及び証拠保全対応

まず社内での対応として、事実関係の正確な把握と証拠の保全を最優先で進めるべきです。事案に応じて、関係する会計記録や銀行取引明細、社内メール、監視カメラ映像などのデータを収集し、必要に応じて専門家の協力を得て不正の有無や損害額を明確にします。また不正に関与した可能性がある従業員には、システムアクセス制限などの措置を講じ、証拠隠滅や不正の拡大を防止する対策などが必要です。さらに当該従業員に対しては、就業規則や雇用契約書において調査のための停職の定めがあれば、停職を行うことができますが、その場合でも停職期間は7日以内とする必要があり、また就業規則によって定められた割合の賃金を支給する必要があります。

(2) 懲戒処分および刑事手続き対応

調査の結果、不正が事実と認められた場合には、法および就業規則に基づき懲戒処分を行うことになります。横領や背任など、会社に重大な損害を与えたといえるような事案については「懲戒解雇(解雇補償金不要)」に該当するとして、解雇手続きを進めることが可能です。いずれの懲戒処分を行う場合にも、不当な処分であると後になって従業員から労働裁判所に訴えられないように、慎重に手続を進める必要があります。

さらに、不正行為が詐欺や横領などの場合で従業員に対する刑事責任を追及する場合には期限についての注意が必要です。タイ刑法において横領罪や詐欺罪について、刑事告訴期間は「犯罪行為及び被害者が犯人を知った日から3か月以内」と定められています。このため横領事案などで刑事手続きを進めたい場合には、この期間内に刑事告訴を行う必要があり、内部調査を進める一方で、刑事告訴の要否を早急に判断し、期限内に行動できるように準備を進めることが不可欠です。