(1) 概要
現行のベトナム2015年労働法によれば、従業員の法定義務の一つとして「労働規律および就業規則を遵守し、使用者の管理、運営および監督に従うこと」が規定されています。したがって、従業員による不正行為または違法行為があった場合、必要な要件および条件が完全に満たされることを前提に、労働規律違反処分、労働契約履行の一時的停止、または契約期間満了前の労働契約終了といった措置を適用することが可能です。
(2) 労働規律処分(懲戒処分)
規定されている懲戒処分は、① 譴責、② 最長6か月の昇給延期、③ 降格、④ 解雇の4つです。使用者は、従業員の不正または違法な行為や行動を明示的に記載し、それに対応する懲戒処分を定めた独自の就業規則を策定することが可能です。ただし、この就業規則は現行の労働関連規定に従う必要があります。
具体的には、使用者に10人以上の従業員がいる場合には、法定の必須事項を盛り込んだ就業規則を定め、これを所轄官庁へ就業規則を登録しなければなりません。その上で、解雇の懲戒処分は、以下の法定事由に該当する場合にのみ認められます。
- 職場において、窃盗、横領、賭博、故意の傷害、または薬物使用等の行為を行った場合。
- 技術上または営業上の秘密を開示した場合、使用者の知的財産権を侵害した場合、使用者の資産または利益に重大な損害を与える、またはその重大な損害のおそれを生じさせる行為を行った場合、または職場においてセクシャルハラスメントを行った場合。
- 上記①、②、③に記載された他の懲戒処分を受け、違反を赦免される前に「再犯」した場合。「再犯」とは、懲戒処分を受けた違反行為を、所定の赦免がされる前に再度行うことをいいます。
- 正当な理由なく、初めて出勤しなかった日から起算して、30日のうち合計5日、または365日のうち合計20日欠勤した場合。
(3) 労働契約の一時的停止
この措置は、違反した従業員が以下のいずれかに該当する場合にのみ適用されます。
- 刑事訴訟法に基づき身柄拘束または勾留されている場合。
- 更生保護施設、薬物リハビリセンター、矯正施設に送致された場合。
- その他、使用者と従業員が合意した場合。
(4) 契約期間満了前の労働契約の終了
使用者は、違反した従業員について、以下の場合には締結済みの労働契約を早期に終了させる権利を有します。
- 裁判所の確定判決または裁定により、執行猶予または釈放の対象とならない懲役刑を言い渡された場合、死刑を言い渡された場合、または労働契約で合意した業務の遂行を禁止された場合。
- 裁判所の確定判決や裁定、または管轄当局の決定により国外追放となった場合(ベトナムで勤務する外国人従業員にのみ適用)。
労働契約締結時に、採用に影響を及ぼす形で、規定に従った真実かつ正確な情報を提供しなかった場合。この場合、使用者は違反した従業員に事前に通知することが求められます。労働契約を一方的に早期終了する場合の事前通知期間についても、規定に従って通知しなければなりません。