「フィリピンにおける外国人に対する社会保障制度の概要」

(1) 概要 

フィリピンも一般国民向けの社会保険があり、退職年金や障害年金、失業手当、出産休暇手当などの給付を行っています。今回の記事ではフィリピンの社会保障制度についてご説明いたします。

フィリピンの社会保障は以下の3つです。

1.1 Social Security System (SSSと呼ばれる社会保障)  

2.2 Philhealth (フィリピン版の国民健康保険)

3.3 Home Development Mutual Fund (通称Pag-IBIG、持家促進相互基金)

Pag-IBIG(持家促進相互基金)については、外国人はフィリピンの土地所有ができないため持家を購入することがほとんどなく、2019年に外国人はPag-IBIGへの納付は免除となりました。

(2) SSS

SSSは退職年金、障害年金、失業手当、労働災害補償、出産休暇手当、葬祭料などを給付する包括的な社会保障です。民間企業の労働者は外国人も含め、SSSへの加入が義務付けられており、毎月、標準月額報酬から算出された保険料を労使間で負担します。通算して120か月の納付期間があればフィリピンで退職年金の受給対象になります。標準月額報酬額は34750ペソが上限として設定されており、賃金が34750ペソを超える場合、労使で負担する保険料は5280ペソとなります。

※2025年時点

駐在員も当然SSS・PhilHealth加入対象となるため、原則、保険料の納付が必要となります。駐在員の場合、通常は日本でも国民年金・厚生年金に加入していますので、日本とフィリピンで二重で保険料を負担することになってしまいます。そこで保険料の二重負担を解消する目的で、2018年に日比社会保障協定が発効されました。この協定により、日本で国民年金・厚生年金に加入している駐在員については、フィリピンにおけるSSSの保険料納付を免除することができます。ただし自動的に免除が適用されるわけではなく、まずは日本の年金機構から「適用証明書」を取得し、それをフィリピンのSSSに提出し受理されることで、免除が適用されます。

(3) Philhealth

フィリピン版の国民健康保険で、入院医療費と特定の外来治療費の一部をカバーします(一般外来や健康診断は適用外)。Philhealthは外国人含め全労働者は加入しなければなりません。

保険料は賃金の5%分(PHP5,000が上限)を労使折半して納付します。例えば、賃金が10,0000PHPの場合、その5%がPHP5,000ですので、これを労使折半するとPHP2,500が労働者側の納税額となります。現状、Philhealthの適用範囲は限られており給付金も少額のため、外国人労働者がその恩恵を受けることはほとんどありません。ほとんどの外国人労働者や民間企業の従業員はHMO(Health Maitenance Organization)という民間保険に加入し、提携先のクリニックで治療や健康診断を受けることが一般的となっています。また、労働市場においてもHMO加入有無が入社企業選択の重要ファクターにもなっています。

(4) おわりに

本記事で説明した社会保険への毎月の保険料納付は必須となります。そのため、これらの制度の概要を知っておくことが重要です。企業によっては、外国人の賃金から社会保障が全く控除されていないケースもあります。

また、納税額は毎年少しずつ引き上げられることが予想されますので最新の情報は各機関のホームページを確認するか、専門家にご相談ください。