メキシコ法には、製造物責任を独立に定める特別法は存在せず、当該責任は主として民法上の不法行為責任等の規定に基づくものです。契約当事者間においては契約上の瑕疵担保責任が併せて問題となる場合があります。メキシコは連邦制を採用しており、各州において、製品の欠陥に起因する損害について製造者等の民事責任が定められています。
また、連邦消費者保護法(Ley Federal de Protección al Consumidor)には供給者が消費者に対して責任を負う旨の規定が含まれており、消費者と供給者との関係を規律する枠組みを提供しています。同法は消費者の生命・健康・安全の保護や、財産的・精神的損害の防止および救済を基本原則として掲げており、これに基づき連邦消費者保護庁(Procuraduría Federal del Consumidor:PROFECO)が製品安全に関する監督や違反行為への是正措置を担っています。
(2) 責任主体
メーカーのみならず、流通経路に関与した複数の当事者が責任主体となり得ます。製品の製造・流通に関わる者は、その行為または不作為が欠陥や損害の発生につながった場合には責任を問われる可能性が否定できません。例えば部品サプライヤーが提供した部品の欠陥に起因して損害が生じた場合には当該サプライヤーが、流通業者の不適切な表示や指示欠如によって事故が生じた場合には当該業者が、それぞれ責任主体とみなされるのが相当です。なお、行政上は消費者保護法により供給者全般に対し安全な製品を提供する義務が課されており、違反行為は行政処分や制裁の対象ともなります。
(3) 消費者救済
消費者保護法上は、製品またはサービスに、通常の使用目的に適さない隠れた欠陥・瑕疵があり、品質または使用可能性を低下させる、あるいはその性質上期待される安全性を欠く場合に、消費者は、契約物の返還、契約の解除、価格の減額を選択できるとされています。そして、いずれを選んだ場合でも、割増金または補償を請求することが可能です。なお、これらの規定は、損害が発生している場合の損害賠償請求を妨げるものではありません。
また、PROFECOは検査等により、法令違反や危険性が認められた商品・サービスについて消費者に警告を発し、他の当局が発した警告を公表するほか、供給者に対してリコールを命じることがあります。製品等が消費者の生命または健康を脅かすおそれがある場合には、修理や交換を命じ、必要に応じて市場からの撤退や廃棄を指示します。
さらに、集団訴訟(クラスアクション)による救済制度が設けられており、共通の被害を受けた消費者のグループが代表者を通じて訴訟を提起することが可能です。被害者グループ自身による集団訴訟提起のほかに、PROFECO等の行政機関も原告として集団訴訟を提起または支援する仕組みが整えられています。






