(1) 労働安全衛生法典における派遣労働制度
日本の派遣労働に類似するものとして、インドでも、雇用主が労働者を直接雇用するのではなく、派遣元(contractor)から派遣労働者(contract labour)の派遣を受ける仕組みがあります。
派遣労働者(contract labour)の直接の雇用主は派遣元(contractor)であり、派遣労働者(contract labour)と派遣先の間に直接の雇用関係は生じないため、派遣先が 派遣労働者(contract labour)の使用を停止したとしても解雇には当たりません。派遣労働者(contract labour)は、厳しい解雇規制の対象とならない等、派遣先にとっては利用しやすい制度であり、多くの日系企業が利用しています。
派遣労働者に関しては、これまで、1970年派遣労働(規制及び禁止)法(Contract Labour(Regulation and
Abolition)Act,1970。以下「派遣労働法」といいます)によって規律されていましたが、2025年11月21日より、複数の労働法を整理統合し改正した労働安全衛生法典(Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020)が施行され、派遣労働(規制及び禁止)法も同法に統合されることとなりました。
以下では、労働安全衛生法典に基づき、インドの派遣労働制度について解説していきます。
(2) 中核的業務の禁止
労働安全衛生法典は、過去12ヶ月間のいずれかの日に50人以上の派遣労働者(contract Labour)を雇用しているまたは雇用していた全ての派遣元(contractor)に対し、免許の取得を義務付けています(労働安全衛生法典45条(1)、47条)。
また、一部の例外を除いて、「中核的業務」(core activities)と呼ばれる業務における派遣労働者の使用は原則禁止とされています(労使関係法典57条)。この点、「中核的業務」とは、当該事業所が設立された目的となる活動を意味し、当該活動に不可欠なあらゆる活動も含まれます(労使関係法典2条(p))。ただし、以下のものは中核業務に含まれません。
①清掃、掃除などの衛生業務
②警備業務
③食堂及びケータリング業務
④荷積み及び荷降ろし業務
⑤病院、教育訓練施設、ゲストハウス、クラブなどの運営(事業所の支援業務の性質を有する場合)
⑥宅配便業務(事業所の支援業務の性質を有する場合)
⑦土木工事およびその他の建設工事(保守を含む)
⑧庭や芝生の手入れ、その他これらに類する業務
⑨ハウスキーピング、ランドリーサービス、その他これらに類する業務(事業所の支援業務の性質を有する
場合)
⑩救急車を含む輸送業務
⑪中核的業務であっても断続的な性質を有するもの
なお、中核的業務であっても、当該業務が、1日の労働時間の大部分又は状況に応じてより長い期間、フルタイムの労働者を必要としない場合等、一定の場合には例外的に中核的業務における派遣労働者の使用が認められます。
(3) 派遣先の義務
派遣労働者の直接の雇用主は派遣元であり、派遣労働者に対して雇用主としての責任を負うのは派遣先ではなく、派遣元です。
ただし、職場における健康・安全環境の整備や、福利施設の提供等は、派遣先の義務となっています(労使関係法典53条)。
また、派遣元(contractor)が派遣労働者(contract labour)に賃金を支払わない、または、少額しか支払わない場合には、派遣先が未払い分の賃金を支払う義務を負うこととなります。なお、派遣先がこのような賃金の支払いをした場合には、派遣元(contractor)に対して求償請求をしたり、派遣先から派遣元に対し支払われるべき対価から当該額を控除したりできます(労使関係法典55条(3))。






