「フィリピンにおける取締役の責任追及に関する法制度度の概要について」

(1) 取締役の責任に関する概要

 フィリピンにおいて、取締役が経営の過程で行った判断については、原則として個人責任を負いません。この考え方は、日本と同様に経営判断原則(Business Judgment Rule)として整理されています。

経営判断原則が認められる理由は、会社運営を委任された取締役が、事業上の判断を行ううえで最も適切な立場にあるためです。結果が思わしくなかったという理由だけで責任追及を受けることがないようにすることで、取締役が萎縮せず意思決定できる環境を確保しています。

もっとも、経営判断原則があるとしても、取締役が常に責任を免れるわけではありません。たとえば、判例(FILIPINAS PORT SERVICES, INC. v. Go, G.R. No. 161886, March 16, 2007)は、経営判断原則の適用について次のように示しています。

損失が生じたとしても、その原因が単なる判断ミスにとどまり、悪意(Bad Faith)や過失(Negligence)が認められない限り、取締役は責任を負わない。取締役の責任を追及するには、損失の発生に加え、問題となる行為が悪意(Bad Faith)または敵意(Malice)を伴って行われたことを示す必要がある。

つまり、単なる経営判断の誤りでは責任は生じない一方で、悪意などによる行為の場合には責任を負うという整理になります。

(2) 法律により取締役が責任を負う場合

判例に加え、フィリピン会社法第30条は、以下の行為を行った取締役について、会社や株主等に生じた損害に対して連帯して責任を負うと定めています。

  • 明白に違法な行為(Patently Unlawful Acts)
  • 重大な過失または悪意(Gross Negligence or Bad Faith) 
  • 利益相反・背信(Conflict of Interest and Disloyalty)

(3) 責任追及を行う主体の例

(ⅰ) 会社による責任追及

取締役が会社に損害を与えた場合、会社は取締役に対して損害賠償請求を行うことができます。

(ⅱ) 株主代表訴訟(Shareholder Derivative Suit)

原則として、取締役に対する損害賠償請求は会社が行います。しかし、取締役の多数が損害に関与している場合など、会社による追及が困難となり得るケースもあります。

そこでフィリピンでも、日本と同様に株主代表訴訟(Derivative Suit)が認められています。株主代表訴訟とは、株主が会社の立場に立ち、取締役等の違法行為によって会社に生じた損害の回復を求めて訴えを提起する制度です。たとえば、取締役の自己取引により会社が損害を被った場合、株主は代表訴訟によって会社の損害回復を求めることができます。

もっとも、フィリピンにおいて、株主代表訴訟はあらゆる場合に認められるわけではありません。取締役会が適法に経営判断を行使できる限りは、経営判断原則(Business Judgment Rule)が優先されるためです。言い換えれば、株主代表訴訟は、取締役会が会社の利益を守るための判断を適法に行使できない場合に、例外的に機能する制度といえます。

(ⅲ) 株主による責任追及

株主が自身に直接損害が生じたことを理由として、取締役に対して責任追及を行うこともあります。この場合、株主代表訴訟と異なり、損害が会社ではなく株主に直接生じていることを主張する必要があります。