⑴ 2023年バングラデシュ特許法の概要
2023年バングラデシュ特許法(Bangladesh Patents Act, 2023)は、2023年11月13日に国会で可決され、2025年2月27日より施行されています。同法により、2022年に制定されたバングラデシュ特許法は廃止されました。
⑵ 所管官庁
同法に基づく特許行政は、従来と同様、特許意匠商標局(DPDT:Department of Patents, Industrial Designs and Trademarks)が所管します(同法3条)。DPDT局長(Director General)には、証拠調べや召喚などに関して民事裁判所に準じる権限が付与されており(同法56条)、出願審査から異議申立ての処理(同法19条、同法20条)まで、一元的に対応する行政体制が敷かれています。
⑶ 特許を受けられない発明
同法6条は、特許の対象とならない事項として、発見・科学理論・数学的方法、事業方法・コンピュータプログラム自体、治療・診断方法、公序良俗違反の発明などを列挙しています。また、原子力の利用に関する発明については、特許付与が認められません(同法7条)。
⑷ 出願・審査手続
ア 出願
特許出願をなしうるのは、発明者本人のほか、発明の所有権を主張する者、死亡した発明者の法定代理人、共同発明者、雇用契約に別段の定めがない限り職務発明における雇用者です(同法4条)。出願は1発明1件を原則とし、所定様式でDPDTに提出する必要があります(同法8条⑴)。
優先期間は12か月で(同法5条(e))、出願日は受理日をもって確定します(同法16条)。分割出願は最初の出願から3年以内に最大3件まですることができ(同法14条)、明細書等の補正は新規事項の追加にあたらない範囲でのみ認められます(同法11条、12条)。
イ 出願の公開及び審査
出願は原則として出願日から18か月経過後に公開されます。出願人の請求により早期公開も可能です(同法17条⑴、⑷)。国家安全保障に関わる発明は非公開のまま関係当局の審査に付されます(同法18条)。審査請求は出願日から36か月以内(延長時は最長39か月)に行う必要があり、請求がなければ出願は放棄したものとみなされます(同法21条)。審査では新規性・進歩性・産業上の利用可能性等が審査されます(同法22条、23条)。
審査の結果は付与・拒絶いずれも書面で通知され(同法24条)、特許権の存続期間は出願日または優先日から20年です(同法28条⑴)。
ウ 異議申し立て
特許付与前は、出願公開後、いつでも利害関係人が異議を申し立てることができますが、出願公開から少なくとも6か月を経過するまでは特許を付与することはできません。(同法19条)。特許付与後は、公表から24か月以内であれば異議申立てができます(同法20条)。
⑸ 強制実施権
強制実施権とは、特許権者の意思にかかわらず、一定の要件のもとで政府機関の決定により第三者に特許発明の実施を認める制度です。主な申請事由として、①公共の利益(国家安全保障・栄養・保健・国民経済の発展等)、②裁判所または管轄権を有する行政機関による不公正競争の認定、③特許権者による排他的権利の濫用、④輸入以外の方法によりバングラデシュ国内で特許発明が実施されておらず、かつ特許権者が国内製造が経済的または技術的に実行可能であることを立証できない場合、⑤後願特許が先願特許と比較して経済的に重要な技術的進歩を伴う発明を主張しており、当該先願特許を侵害することなくしては実施できない場合、⑥許諾申込みから4か月以内の正当理由なき拒否、⑦固定用量配合医薬品の製造および販売を含む必需品または必需サービスの供給を確保する必要がある場合が挙げられています(同法36条⑴各号)。半導体技術については、政府の非商業的使用または不公正競争是正の場合に限定されます(同条⑺)。
このほか、国家的緊急事態や公衆衛生上の緊急事態(HIV・結核・マラリア等の感染症、癌・糖尿病・循環器疾患等の非感染性疾患を含む)が認められる場合には、官報告示により60日以内という迅速な手続きで強制実施権が設定されます(同法38条)。
強制実施権は原則として非独占的で、事業の一部としてでない限り譲渡できません(同法36条⑸)。
⑹ 救済措置
ア 侵害訴訟・差止命令
特許権者は、製品特許・方法特許それぞれの排他的権利(同法25条)を侵害する者に対し、管轄権のある裁判所(地方裁判所に限らない)に訴訟を提起できます(同法44条⑴、45条)。
仮差止めは、相手方に審尋の機会を与えずに一方的に発することは原則として認められず(同法47条⑴、⑵)、その許否は一応の証拠の有無、当事者の利益衡量、回復不能な損害、医薬品訴訟であれば入手可能性への影響等を考慮して判断されます(同条⑶)。特許権者が国内で実施していない場合など、一定の場合には差止め・特定の救済が制限されます(同条⑺)。
イ 特許の取消
特許の効力自体を争う手段としては、利害関係人による裁判所への取消申立てのほか(同法32条)、公衆衛生等の公益を害する場合の政府による取消宣言があります(同法34条)。
ウ 損害賠償等の救済 特許権侵害が認められた場合、裁判所は恒久的差止めに加え、損害賠償または利益の返還を命じることができます(同法49条⑴、⑵)、賠償額は公表日、侵害者への通知日、価格の妥当性、国内製造の有無等を考慮して算定されます(同条⑶)。






