マレーシアのトピック、最新の法令等の紹介

⑴ 汚職防止委員会法の概要

 マレーシアでは、汚職防止規定として、2009年汚職防止委員会法(Malaysian Anti-Corruption Commission Act 2009)が制定されています。同法は2018年に改正法(Malaysian Anti-Corruption Commission[Amendment] Act 2018)が制定され、同改正法(以下「MACC法」といいます。)は2020年6月に施行されました。MACC法は汚職防止委員会等の設置を通じて、公共部門及び民間部門の運営における廉潔性の向上及び説明責任を拡大させることなどを目的としています(MACC法2条)。

⑵ 賄賂の定義

 MACC法の規制対象となる行為は、不正な便益(gratification/bribery、以下では「賄賂」という表現を用います。)の収受、あるいは供与を行うことです。賄賂とは、職務の対価として受け取る不正な報酬としての利益をいい、金銭や動産、不動産などの有形のものに限らず、職のあっせん、刑事罰の免除などの無形のものも含まれます(MACC法3条)。

⑶ 賄賂の要求・収受・供与等

 MACC法は、汚職行為の規制を受ける主体を公務員(officer of public body)に限定していません。すなわち、何人も、自己又は第三者のために、自己が何等かの事項に関して、何等かの行為を行い又は行わないことについて、あるいは、公務員が公共団体が関与する何等かの事項に関し、何等かの行為を行い又は行わないことについて、不正に賄賂を要求し、収受しもしくは約束した場合には、犯罪行為として罰則の対象となります(MACC法16条)。

 また、他人が何等かの行為を行いまたは行わないことについて、自己又は第三者のために、その他人又は第三者に対して、不正に賄賂を申し出、供与しもしくは約束した場合にも、犯罪行為として罰則の対象となります(同条)。

⑷ 公務員・外国公務員の特定の行為に関する汚職行為

 MACC法は、一般的・包括的な汚職行為に加えて、公務員に関する汚職行為についても規制しています。すなわち、何人も、自己又は第三者のために、公務員に対して、公務員として一定の職務に関する行為を行い又は行わないことについて不正に賄賂を供与(以下「供与等」といいます。)し、申し出、もしくは約束すること、及び公務員が一定の行為を行い又は行わないことについて、不正に賄賂を要求し、収受しもしくは約束すること(以下「収受等」といいます。)は、犯罪行為として罰則の対象となります(MACC法21条(a)~(d))。

 外国公務員の場合も同様に、自己もしくは第三者を通じて、または共同して、外国公務員に対して、外国公務員として一定の職務に関する行為を行い又は行わないことについて不正に賄賂を供与等すること、及び外国公務員が一定の行為を行い又は行わないことについて、不正に賄賂を収受等することは、犯罪行為として罰則の対象となります(MACC法22条(a)~(c))。

⑸ 入札の撤回に関する汚職行為

 公共団体と民間の間の請負契約や売買契約について入札を行う者との間で、公共団体との契約のために入札を行った者に対して入札を撤回するための誘引または見返りとして利益を供与すること及び契約の入札を撤回することの誘引または見返りとして利益を要求し、もしくは収受することは、犯罪行為として処罰対象となります(MACC法20条(a)・(b))。

⑹ 偽造文書に関する汚職行為

 ある者が、本人(雇用主、所属団体)を誤解させる意図をもって虚偽、もしくは重要な点での誤りがある領収書もしくは帳簿、その他本人が関心のある文書を代理人や所属団体の職員に交付する行為、または代理人が本人を欺くためにそれらの文書を利用することは、犯罪行為として処罰対象となります(MACC法18条)。

⑺ 商業団体関係者の汚職及び商業団体の抗弁

 MACC法17A条は、商業団体関係者が、他人に対して、当該商業団体のために事業の獲得もしくは維持する目的で、または当該商業団体のために事業を遂行するうえでの便益を獲得し、もしくは維持する目的で、不正な利益を供与等した場合、当該商業団体自体を処罰することを定めています(同条⑴)。

 規制の対象となる商業団体としては、マレーシア会社法又は外国法に基づき設立され、マレーシア若しくは他国で事業を営む会社などが(同条⑻)、商業団体関係者としては、商業団体の取締役、共同経営者(パートナー)・従業員、商業団体のために業務を行う者・商業団体の代理人などが挙げられています(同条⑹)。

⑻ 商業団体等が汚職行為を行った場合の取締役等の責任

 商業団体に違反が認められた場合、違反行為時点において役員または共同経営者であった者、商業団体の業務管理に関与する地位にあった者は、当該行為がその者の同意または黙認なく行われたこと、かつその者の地位における職責と状況に鑑みて、当該行為を防止するための適切な措置(due diligence)を講じたことを証明しない限り、その者も違反したものとみなされます(MACC法17条A⑶(a)(b))。

⑼ 商業団体の抗弁

 商業団体関係による汚職行為について、当該商業団体は、商業団体関係者による汚職行為を防止するための適切な手続(adequate procedures、以下「適切な手続」といいます。)を講じていたことを証明することにより、当該商業団体の犯罪成立を回避することができます(同条⑷)。

⑽ 適切な手続きに関するガイドライン

 首相府は、MACC法17A条⑸に基づく適切な手続に関するガイドライン(guidelines on adequate procedures pursuant to subsection(5) of section 17A under the Malaysian Anti-Corruption Commission Act 2009)を発行しています。

 本ガイドラインでは、商業団体が同条⑴により罪に問われる可能性がある場合において、その犯罪成立を回避するための具体的な防御策を提供しています。  他方で本ガイドラインに記載されている具体的防御策は、商業団体の規模や業種に応じて柔軟に適用されるべきとされています。したがって、本ガイドラインに記載されている事項の一部を遵守・履践していなかったとしても、商業団体の規模や業種によっては、適切な手続を講じていたと判断され得ます。