「日本の社会保障に関する法制度の概要」

社会保障制度は、(1)医療保険、年金、介護保険、雇用保険及び労災保険からなる社会保険、(2)社会的弱者に対する公的支援である児童福祉を含む社会福祉、(3)生活困窮者に対する生活保護制度を軸とする公的扶助、(4)予防衛生に主眼を置いた保健医療・公衆衛生からなります。1958年の国民健康保険法(昭和33年法律第192号)改正と1959年の国民年金法(昭和34年法律第141号)制定により、国民皆保険・皆年金が導入されていること、社会保険方式をとるものの、その財源の約3割を公費で賄っていること、被用者と自営業者等で別個の健康保険と年金の制度が用意されていること等に特徴があります。以下では、介護保険を除く社会保険について、概観します。

(1)医療保険制度

医療保険は、その職種によって、①公務員が加入する共済組合保険、②大企業の被用者が加入する健康保険組合、③中小企業の被用者の加入する協会けんぽ、④その他の自営業者や非正規雇用者が加入する国民健康保険の4つのグループに分かれます。保険料は、①~③の被用者保険では、毎月の給与と賞与に保険料率を掛けて計算され、事業主と被保険者とが半分ずつ負担しますが、④の国民健康保険では、世帯毎に賦課される平等割、世帯の被保険者数に応じた均等割り、被保険者の所得に応じる所得割と固定資産税額に応じる資産割から計算して世帯単位で定められます。少子高齢化に対応すべく、75歳以上の高齢者を対象とする後期高齢者医療制度が2008年に制定され、高齢者からも保険料が徴収されています。

被用者保険は、常時1名以上使用される者がいる法人事業所及び常時5名以上使用される者がいる法定16業種に該当する個人の事業所について強制適用され、これら以外については労使合意により任意に適用事業所となることができます。

2020年に被用者保険の適用を拡大する各法律改正がなされました。具体的には、2022年10月以降は、弁護士・税理士等の法律・会計事務を取り扱う士業が被用者保険の強制適用対象となりました。また、保険対象は所定労働時間週30時間以上ですが、2016年10月に従業員500人超の企業に義務化された、①週20時間以上で、②月額賃金8.8万円以上、③1年以上の勤務の見込みがある短時間労働者に対する被用者保険の適用の義務化が、2022年10月からは100人超、2024年10月からは50人超の企業まで段階的に拡大されることとなり、同時に、被用者の勤務期間の要件③が撤廃されました。 

(2)年金制度

 全員が国民年金の被保険者となり、20歳から60歳まで保険料を納付する義務があります。一定の被用者と公務員については、保険料を雇用者とで折半する厚生年金保険にも加入することとなり、年金受給時には、報酬比例年金が基礎年金に上乗せされます。また、公的年金の他に、国民年金基金や個人型確定拠出年金(iDeCo)等に任意で加入することで上乗せした年金を受給することも可能です。

 年金の受給は、60歳から75歳の間で自由に選択することができ、65歳よりも早く繰上げ受給するときは年金額が1月当たり0.4%減額(最大30%減)され、65歳以降に繰下げ受給するときには1月当たり0.7%増額(最大84%増)となります。

(3)雇用保険制度

 雇用保険制度では、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づき、労働者が失業したときに生活を支える基本手当や就業に資する教育訓練を受けた際の就業促進手当を含む失業等給付及び子の養育のために休業した場合の育児休業給付がなされます。

1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込がある場合、雇用形態や労使の希望の有無にかかわらず、雇用者に加入が義務付けられます。雇用保険料は、原則として、労働者に支払う賃金総額に保険料率を乗じて計算され、被保険者負担額が控除される形で、雇用者と労働者で負担します。

 失業した場合の雇用保険(基本手当)の受給には要件があり、就業を希望しているにもかかわらず失業状況にある場合で、離職時の年齢、雇用期間の加入期間(原則、離職前2年間に被保険者期間が12か月以上)、離職の理由等により、給付期間が90日~360日と異なる他、給付開始が自己都合退職の時には届出から数か月後になる等、失業者の状況に応じて差異があります。給付される基本手当は給与の総支給額に基づき定められます。

(4)労災保険制度

労災保険制度は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づき、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の疾病等に対して必要な保険給付を行い、被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。原則として、雇用形態に関係なく賃金を支給される労働者を一人でも使用する事業は、その規模を問わずすべてに適用され、雇用者が事業の種類により定められた保険率によって算出される労働保険料を全額負担します。被災労働者に対しての給付は、療養(補償)給付、介護(補償)給付、休業(補償)給付、傷害(補償)給付、遺族(補償)給付があり、それぞれの給付金額が定められています。