マレーシアにおける不法行為の成立要件等については明文がなく、コモンローに基づいており、以下のとおり整理することができます。
(1)不法行為が成立するための要素
(a) 注意義務の存在
注意義務の存在を判断するために、neighborhood principleが適用されます。これは、加害者と同様の状況にある合理的な者が、加害者の行為が被害者に対して被害を与えることを予見することができたといえる場合には、注意義務を負うと判断されるというものです。
(b) 注意義務違反
加害者が、最低限必要な基準を下回る行為を行い、加害者と同様の状況にある合理的な者が加害者と同様の行動をするとはいえない場合には、注意義務に違反したと判断されます。
(c) 因果関係
裁判所は、注意義務違反と被害者が被った損害との間に因果関係があるかどうかを判断します。裁判所がこれを判断する際には、注意義務違反行為に関連する原因、及び被害者が注意義務違反に寄与したかどうかが問題となります。
(2) 立証責任
1950年マレーシア証拠法(Evidence Act 1950)101条に基づき、立証責任は請求者である原告(被害者)にあります。しかし、原告がすべてを詳細に証明することは困難な場合があります。そのような場合には、「Res Ipsa Loquitor(物事はそれ自体を語る)」に基づいて判断されることがあります。これは、被告(加害者)がどのように行動したかについて証拠が十分にない場合には、裁判所は、事故又は傷害の性質から被告の過失を推認することができるというものです。
(3) 救済方法
不法行為法の目的は、不法行為が発生する前と同じ状態に戻すために、証明された損害に対して完全な補償又は救済を被害者に対して提供することです。そこで、被害者には、救済方法として以下のものが認められています。
(a) 損害賠償
不法行為が発生する前の状態に戻すために被害者に支払われる金銭は、損害賠償として知られています。不法行為に対しては、通常、損害賠償が主な救済策とされています。
(b) 差止命令
裁判所は、不法行為に対する衡平法上の救済方法である差止命令を行うことができます。被害者に生じた損害を取り戻すために、裁判所は不法行為者に対して当該不法行為を止めるか、又は、他の適切な行動をとるよう命じることができます。
(c) 特定の財産の返還
被害者は、財産が不法に奪われた場合には、財産を回復する権利があります。
(4) 抗弁
加害者が主張することが考えられる抗弁は、注意義務の存在又は同義務の違反に関して異議を唱えること、又は因果関係の断絶を指摘することです。
また、加害者は、制限、同意、免責条項(1977年不公正契約条項法の原則(principles of the Unfair Contract terms Act 1977))、正当防衛、請求者(被害者)自身の不正行為(exturpi causa)及び寄与過失等に基づいて、請求された損害を軽減するための抗弁を主張することが考えられます。