ベトナム憲法には、全ての市民は職業、仕事、および勤務場所を選択する権利を有する(35条1項)と規定されています。この原則に基づき、労働法1条10項では、労働者は自由に職業を選択する権利をもち、法律で禁止されていない限り、あらゆる場所において自由に仕事と雇用主を選択する権利があると明記されています。同様に、雇用法6条9項でも、労働者の合法的な権利や利益を妨害したり、困難に陥れたり、損なったりする行為を厳しく禁じています。したがって、使用者は労働者に対し、競合企業で働くことを禁止することはできないと考えられています。
ただし、労働者が使用者の営業秘密や技術秘密に直接関係する業務に従事する場合、使用者はその労働者との間で、営業秘密や技術秘密の保持やこれに違反した場合の賠償義務について書面で合意することは可能とされています(労働法21条2項)。
なお、ベトナムでは、競業避止義務契約(Non-Competition Agreement、以下「NCA」)に関する具体的な規定がなく、ベトナムの法律実務におけるNCAの有効性については多くの意見が対立しています。また、ベトナムの法令には、ある企業と企業が競合関係にあるか否かを判断するための具体的な基準もありません。
したがって、使用者と労働者の間でNCAを締結する場合、少なくとも以下の点に留意する必要があります。
i) 使用者と労働者との間で、労働契約とは別にNCAを締結すること。
ii) NCAの有効期間と適用範囲を合理的な水準に設定すること。
iii) NCAの内容は、使用者と労働者の権利と義務のバランスを考慮した合理的なものになるようにすること。
iv) NCA違反に対する制裁規定については、労働者が競合企業で働くことを完全に禁止するようなものとはしないこと。