(1) 概要
マレーシアには普通裁判所として、①連邦裁判所(Federal Court)、②控訴裁判所(Court of Appeal)、③高等裁判所(High Court)、④初級裁判所(Session Court)、⑤治安判事裁判所(Magistrates Court)が設置されています。①ないし③は上級裁判所(Superior Court)、④及び⑤は下級裁判所(Subordinate Court)と呼称されます。
これらの裁判所の他、労使裁判所(Industrial Court)のように、高度の専門性が要求される分野を管轄する特別裁判所も設置されています。
(2) 連邦裁判所(Federal Court)
連邦裁判所は、マレーシアにおける最高位の司法機関であり、民事、刑事、憲法問題についての終審裁判所です。民事事件に関しては、同裁判所の許可を条件として、高等裁判所が第一審として行った判決に対する控訴裁判所の判決の当否及び憲法解釈にかかる事件について審理し、裁判を行います。刑事事件に関しては、高等裁判所が第一審としてした判決に対する控訴裁判所の判決の当否及び憲法解釈にかかる事件を審理し、裁判を行います。
(3) 控訴裁判所(Court of Appeal)
控訴裁判所では、高等裁判所又は初級裁判所が第一審として行った判決または命令の当否及び下級裁判所が第一審として行った判決に対してなされた高等裁判所の判決又は命令の当否を審理し、裁判を行います。
もっとも、民事事件については、以下の場合には高等裁判所の判決に対する上訴は認められておらず、結果として控訴裁判所が取り扱う上訴の範囲は限定されています。
① 訴訟物の価額がRM250,000以下の事件(ただし、控訴裁判所の許可がある場合を除きます。)
② 合意判決等
③ 裁判所の裁量に基づき決定された費用にのみ関連する判決等(ただし、控訴裁判所の許可がある場合を除きます。)
④ 書面法により終局的なものであることが明言されている判決等
(4) 高等裁判所(High Court)
民事事件に関しては、高等裁判所は、憲法に規定する制限の範囲内において、全ての民事訴訟を審理する管轄権を有するものとされています。
加えて、以下のような特殊な民事事件についても管轄権を有します。
① 婚姻又は離婚に関する事件
② 破産又は会社に関する事件
③ 乳幼児の保護者の選任・監督等に関する事件
④ 精神障害者の保護者の選任・監督等に関する事件
⑤ 遺言状及びその検認に関する事件
また刑事事件については、下級裁判所において審理することができない法定刑に死刑を含むすべての刑事事件を審理し、裁判を行います。上訴裁判所としての高等裁判所は、下級裁判所の判決に対する当否を審理し、裁判を行います。ただし、民事事件については、法律問題に関するものを除き、訴額がRM10,000以下の請求については、高等裁判所に控訴することはできないこととなっています。
(5) 初級裁判所(Sessions Court)
初級裁判所はマレーシアに155か所設置されています。初級裁判所においては、民事事件に関して、すべての交通事故事件、訴訟物の価額がRM1,000,000を超えない事件並びに契約の履行、取消し、解除及び修正に関する事件について第1審として審理し、裁判を行います。また、刑事事件に関しては、死刑判決の対象となる罪を除きすべての犯罪事件を審理し、死刑以外のいかなる判決をも言い渡すことができます。なお、初級裁判所は、上訴審としての管轄を有していません。
(6) 治安判事裁判所(Magistrate Court)
治安判事裁判所には、第1級治安判事裁判所と第2級治安判事裁判所の2種類が存在します。
ア 第1級治安判事裁判所
第1級治安判事裁判所においては、民事事件に関して、訴訟物の価額がRM100,000以下の事件について審理し、裁判を行います。また刑事事件に関しては、罰金刑又は長期10年以下の拘禁刑を科し得る犯罪事件について審理し、裁判を行います。
イ 第2級治安判事裁判所
第2級治安判事裁判所においては、民事事件に関して、訴訟物の価額がRM10,000を超えない債権回収に関する事件について審理し、裁判を行います。また、刑事事件に関しては、罰金又は長期12か月以内の拘禁刑を科し得る犯罪事件について審理し、裁判を行います。ただし、同裁判所は、6か月を超える拘禁刑、RM1,000以下の罰金刑又はこれらを併せて科する判決のみ言い渡すことができます。
(7) 労使裁判所(特別裁判所)
マレーシアでは、高度の専門性が要求される又は事件数が多い等の理由により、これらの事件を専門的に扱う裁判所として、特別裁判所が設置されています。
労使裁判所は、労使関係法に基づき設立された裁判所であり、労使関係から生じた個別紛争、使用者と労働者との間に生じた紛争及び労使関係法上の権利義務に関する事件を取り扱います。ただし、労使裁判所における手続では、法律問題に関しては、高等裁判所に付託し、判断を求めることが義務付けられています。