「マレーシアにおける内部通報者保護制度の概要」 

(1) 内部通報者保護法の概要

マレーシアには、内部通報者保護法(Whistleblower Protection Act 2010[Act 711]、以下「法」といいます。)が制定されており、内部通報者の保護を図っています。この法律は、公益通報者を保護することで、不正行為の報告を促し、腐敗や不正を防止することを目的としており、内部通報者からの情報非開示義務や法的責任の免責措置により、内部通報者の保護を図っています。

(2) 内部通報者保護法による内部通報者保護の内容

内部通報者の情報は、「秘密情報(confidential information)」として保護されます。具体的には、内部通報者の身元や通報内容に関する情報は秘密情報とされ(法2条)、いかなる者もその情報を他人に開示することは禁止されています(法7条第1項(a)、8条1項)。これに違反した場合、RM50,000以下の罰金や最大10年の拘禁刑が科される可能性があります。また、民事訴訟や刑事訴訟においても、原則として秘密情報は開示されることはありません(法8条2項)。

さらに、内部通報者は、原則として、懲戒処分、その他民事的責任および刑事的責任からも免責されます(法7条1項(b)、9条)。

報復としての不利益取扱いの禁止(protection against detrimental action)も禁止されています(法10条)。不利益取扱いには、身体的・財産的侵害行為、威圧的行為、ハラスメント行為、さらには雇用に関連する差別、解雇、降格、停職、その他内部通報者の生計に対する干渉が含まれます(法第2条)。また、これらのいずれかの行為を行う旨の害悪告知も禁止されています。

(3) 会社による内部通報者保護制度の構築について

マレーシアの内部通報者保護法は、会社に対して正式な内部告発者保護制度の確立を明確に義務付けてはいません。そのため、すべての会社において内部告発者保護制度が構築されているわけではないのが現状です。他方で、不正行為の早期発見の観点からは、会社が独自に内部通報者保護制度を構築することには大きな意義があります。そのため、マレーシアにおいては、会社が内部通報者保護制度を整備することが一般的になりつつあると思われます。