(1) アンチマネーロンダリング法改正の概要
2025年7月に、「不正資金の取引の防止および識別に関する連邦法(Ley Federal para la Prevención e Identificación de Operaciones con Recursos de Procedencia Ilícita、以下「アンチマネーロンダリング法」という)」が改正されました。今回の改正では、「脆弱活動」の対象拡大、実質的支配者の把握義務の強化、監査や情報保存義務の充実が図られています。
同法は、FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の40の勧告との整合を目的とし、金融機関のみならず一般企業も含めて、不正資金の流入防止と高リスク取引の報告を求めるものです。メキシコでは他の法令でもマネーロンダリング規制が設けられていますが、アンチマネーロンダリング法がその中核をなしています。
(2) 主な改正内容
今回の改正でまず重要なのは、「脆弱活動」に関する規律が見直され、その対象範囲が広がった点です。アンチマネーロンダリング法では、一定の業種や取引を「脆弱活動」と定義し、所定の条件のもとで、大蔵公債省(Secretaría de Hacienda y Crédito Público)への報告義務を課しています。対象には、金融機関の業務のほか、賭博等、金融機関以外による一定の金融関連業務、不動産取引や不動産開発資金の受領、貴金属・宝石・時計等の販売、美術品の販売やオークション、車両・船舶・航空機の販売、装甲サービス、公証行為、一定額以上の寄付の受領、通関関連業務、不動産の使用または収益に関する権利の設定、仮想資産関連サービスなどが含まれます。これらの活動を行う事業者には、所定の報告義務に加え、顧客・利用者の本人確認、法人の場合は実質的支配者の確認、関連情報の保存、内部統制の整備が求められます。
また、実質的支配者に関する規律の強化も、今回の改正の大きな柱です。実質的支配者とは、脆弱活動によって生じる財やサービスを最終的に享受する自然人またはそのグループ、あるいは当該取引を行う法人を最終的に実効支配する自然人またはそのグループをいいます。そして、総会における意思決定の支配、取締役等の任免、25%超の議決権保有、経営方針の決定といった事情が「支配」の判断要素とされています。商事会社は、当局の定める要件に従って実質的支配者を特定し、その根拠資料を保存しなければならず、さらに必要な情報を経済省のポータルサイトに登録する義務も負います。加えて、株式や持分の譲渡や権利設定があった場合には、株主登録簿に関する通知も必要とされており、会社法上の制度とも相まって、情報開示の対象と管理が一段と強化されたといえます。
さらに、大蔵公債省は過去5年間に遡って監督・検査を行う権限を有しており、義務違反や報告懈怠、実質的支配者規制違反には高額の罰金が科されるおそれがあります。そのため、自社の活動が脆弱活動に当たるかを確認し、該当する場合には各種義務を確実に履行し、十分な記録を保管しておくことが重要です。






