(1) ベトナムの知的財産権の動向
ベトナムの知的財産権を取り巻く制度環境は、大きな近代化の過程にあり、従来の権利中心の枠組みから、より技術の進展を意識した規制体系へと移行しつつあります。2026年3月現在、この変革は主として、2026年3月1日に施行された人工知能に関する法律(Law No. 134/2025/QH15)及び、2026年4月1日に施行された改正知的財産法(Law No. 131/2025/QH15)という二つの主要な立法動向によって推進されています。これらの動向は相まって、知的財産権の保護及び規制遵守を強化しつつ、ベトナムの法的枠組みを新たな技術に適応させるという戦略的な取り組みを示すものです。
(2) 知的財産関連規定に関する主なポイント
以下、知的財産関連規定に関する主なポイントをいくつかご紹介します。
① 知的財産行政における行政手続の簡素化及びデジタル化の推進
知的財産行政における行政手続の簡素化及び包括的なデジタル化は、新法によって導入された最も重要な改革の一つです。とりわけ同法は、出願公開や実体審査の段階を含む、ほとんどの種類の知的財産出願について、処理期間を大幅に短縮しています。
② 知的財産権の商業化促進
同法は、投資法、企業法、信用法、その他の関係法規に従い、知的財産権を出資持分や融資担保として活用することを含め、その商業的活用を促進しています。この改革は、知的財産権を単なる法的権利としてではなく、特に銀行取引や金融取引において、評価、移転及び商業化が可能な金融資産として認識する方向への転換を示すものです。
③ デジタル技術及び新興クリエイティブ分野における保護対象の拡大
同法は、デジタル技術及び新興クリエイティブ分野の発展に更に適合するよう、保護対象の範囲を拡大しています。具体的には、以下の内容が導入されています。
製品の分離不可能な部分を対象とする部分意匠の保護制度。これはベトナムにおいて全く新しい概念であり、複雑な製品の個々の構成部分について保護を可能にするものです。
グラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)やデジタルアイコンを含む、非物理的製品に対する意匠保護。
暗号化されたプログラム搭載ケーブル信号に対する著作権及び著作隣接権の保護拡充。
④ 知的財産保護における「人間による創作」原則の採用
ベトナムは、知的財産法制の下で保護を受け得るのは、人間によって創作された成果物に限られるという原則を維持しています。したがって、対象が完全に人工知能(AI)によって生成されたものであると認められる場合、又は人間の著作者を特定できない場合には、権利付与が拒絶され、又は無効とされる可能性があります。政府には、AIを用いて生成された成果物に関する知的財産権の創設及び成立に関し、詳細な規定を定める権限が付与されています。
また、同法は、適法に公表されたテキスト及びデータについて、著作者又は権利者の正当な権利利益を不当に害しないことを条件として、AIシステムの研究、試験及び学習の目的で利用することを認めています。
⑤ デジタル環境における知的財産権保護の強化
同法は、以下の内容を導入しています。
オンライン上の権利侵害に対応するための新たな執行措置。これには、デジタルプラットフォーム事業者に対し、侵害コンテンツの防止及び削除に関する義務をより明確に課すことが含まれます。
抑止力を高め、デジタル環境において生じる損害の規模をより適切に反映させるための損害賠償額の引上げ。






