(1) フィリピンにおける公務員への贈答――実務上の判断ポイント
海外で事業を行う際、公務員への贈答について、「食品であれば問題ない」「一定金額以下であれば許容される」といった明確な基準があるかどうかは、実務上気になるところです。
しかし、フィリピンでは、公務員への贈り物について、品目や金額による一律の基準は設けられていません。
この点においてフィリピンは、公務員に対する贈収賄について全体として厳格な立場を取っています。そのため、「少額だから問題ない」と安易に判断することは避ける必要があります。
(2)「社会的儀礼の範囲」であれば許容される可能性
フィリピンでも、社会的な儀礼や通常の感謝の範囲にとどまる贈答については、贈収賄に該当しないと評価される余地があります。
もっとも、その判断は金額の多寡だけで決まるものではありません。次のような事情を総合的に考慮し、「社会的儀礼の範囲内といえるか」が判断されます。
(3)判断にあたって確認すべき4つのポイント
1.公務員側から要求されたものではないこと
公務員本人から、贈り物や接待を明示的または黙示的に求められている場合、社会的儀礼として説明することは難しくなります。贈答は、あくまでも自発的なものである必要があります。
2.名目的・些少な価値にとどまること
贈り物が「些少な価値」といえるかは、単純に金額だけで判断されるわけではありません。受領者の給与水準、贈答の頻度、贈答によって期待される便益なども含めて、総合的に判断されます。
特に、1回あたりの金額が少額であっても、同じ相手に繰り返し贈答を行う場合には、全体として「些少」とはいえない方向に評価される可能性があります。
フィリピンでは一律の金額基準が設けられていないため、特定の金額をもって「ここまでなら安全」と判断することは困難です。
3.便宜の期待や見返りと結びついていないこと
許認可、入札、検査、契約、税務対応など、何らかの案件が係属中である場合や、近い将来に手続が予定されている場合には、贈答が便宜の提供を期待したものと受け取られるおそれが非常に高まります。
案件の完了後に、純粋な感謝として行われる贈答については許容される可能性がありますが、その場合でも、金額、時期、頻度、相手方との関係などを慎重に検討する必要があります。
4.慣習に沿った通常の感謝の範囲であること
贈答の内容やタイミングが、現地の社会的慣習に沿ったものであるかも判断要素となります。
ただし、「現地では一般的に行われている」という事情だけで、直ちに適法性が認められるわけではありません。慣習に沿っている場合でも、見返りの期待や職務上の影響が疑われる状況であれば、贈収賄と評価されるリスクが残ります。
(4)実務上はどのように対応すべきか
実務上、最も安全なのは、現在係属している案件、または今後予定されている案件の関係者には、食品や記念品を含め、原則として贈り物をしない運用です。
また、金額だけで機械的に判断するのではなく、少なくとも次の点を事前に確認することが重要です。
- 公務員側から要求されたものではないか
- 許認可や契約などの便宜を期待するものではないか
- 贈答の金額、内容および頻度が社会的儀礼の範囲にとどまるか
- 現地の慣習に照らして通常の感謝と説明できるか
- 相手方政府機関や自社の社内規程に違反しないか
さらに、贈答を行う場合には、贈答の目的、相手方、金額、時期、関連案件の有無、社内承認の経緯などを記録として残しておくことが強く推奨されます。






