⑴ 2026年会社法等改正法案(Corporate Laws (Amendment) Bill, 2026)の概要
2026年3月23日、インド下院(Lok Sabha)に、2026年会社法等改正法案(The Corporate Laws (Amendment) Bill, 2026、以下「改正法案」といいます)が提出されました。これは、2008年LLP(有限責任組合)法(the Limited Liability Partnership Act, 2008)及び2013年会社法(Companies Act, 2013、以下「現行会社法」といいます)の2本の法律の改正案です。改正法案は、企業活動に関する手続の簡素化、コンプライアンス負担の軽減等を主な目的としています。
本稿では現行会社法の改正案内容について解説いたします。
⑵ 「小規模会社」の適用基準の引き上げ
現行会社法は、資本金及び売上高が一定の基準以下の会社を「小規模会社(small company)」と定義しており、これに該当する会社は、取締役会の開催頻度の緩和、取締役会報告書の簡素化、キャッシュフロー計算書の作成免除等、一定のコンプライアンス上の負担軽減措置の対象となります。
もっとも、現行法上、この基準は「基本額」と「規則により引き上げることが可能な上限額」の二段階の仕組みとなっています。改正法案は、この規則により引き上げることが可能な上限額を、払込済み株式資本については1億ルピーから2億ルピーへ、売上高については10億ルピーから20億ルピーへと、それぞれ引き上げるものです(改正法案18条による現行会社法2条(85)の改正)。なお、実際に適用される基準額は、この上限額の範囲内で中央政府が規則(rules)により定めることとなるため、今後、中央政府がどのような基準額を定めるかについても、引き続き注視する必要があります。
⑶ 企業結合(合併・組織再編)手続の見直し
現行会社法上、会社の合併等の組織再編スキームは、原則として会社法審判所(NCLT:National Company Law Tribunal)の認可を要するものとされています。関係会社が複数の州に所在する場合、従来は各社の所在地を管轄するNCLTでの並行審理が必要とされていましたが、改正法案は、移転先会社(存続会社)の所在地を管轄するNCLTに審理を一本化する規定を新設しています(本法案67条による現行法230条の改正)。
また、小規模会社間の合併、又は親会社・完全子会社間の合併については、通常のNCLT認可手続によらない簡易な手続(いわゆるファストトラック手続)が認められていますが、改正法案は、この手続における株主及び債権者の承認基準を、現行の90%以上から75%以上へと引き下げています(改正法案による現行会社法233条の改正)。また、債権者又は債権者の種類ごとの同意について価額にして10分の9以上とされているところ、改正法案は、これを価額にして4分の3以上とすることを提案しています。また、合併等のスキームは、株主総会に出席し議決権を行使した株主のうち、出席し議決権を行使した株主が保有する株式の75%以上を保有する株主の過半数による承認を得なければならないものとされています。あわせて、過去の企業結合の結果として、存続会社が自社の株式を自己名義又は信託名義で保有するに至った場合には、改正法の施行から3年以内にこれを処分又は消却しなければならない旨の規定も新設されています(改正法案70条による現行法233A条の新設)。会社が上記の株式の処理又は処分を怠った場合には、当該株式は、所定の方法により、会社によって消却されるものとし、当該消却は会社の資本金の減少を構成するものとみなされます。上記の懈怠があった場合には、当該会社及び懈怠のある会社のすべての役員は、懈怠が継続する日数について、1日あたり1万ルピーの過料に処せられます。
⑷ 自己株式取得制度の柔軟化
現行会社法は、会社による自己株式取得について、払込資本及び剰余金の合計額の25%を上限とする規制を設けていますが、改正法案は、自己株式取得について、払込資本及び剰余金の合計額の、規則で定めるところの割合までとすることを定めています。また、自己株式取得の実施回数についても、現行は原則として事業年度内1回とされているところ、一定の会社については、1回目の実施完了から6ヶ月以上の間隔を置くことを条件に、1事業年度につき2回まで実施できるよう緩和されています(改正法案29条による現行会社法68条の改正)。
⑸ CSR(企業の社会的責任)拠出義務の適用除外の拡大
現行会社法は、一定規模以上の会社に対し、直近3事業年度の平均純利益の2%以上をCSR活動に拠出する義務を課していますが、改正法案は、この義務が発動する純利益基準を、現行の5000万ルピーから1億ルピー(又は政令で定める額)へと引き上げています。あわせて、一定の要件を満たす会社をCSR拠出義務の対象から除外する規定も新設されています(改正法案43条(a)による現行会社法135条⑴の改正)。
⑹ ガバナンス実務に関するその他の主な改正
株主総会の開催方法についても見直しが行われています。対面方式とオンライン(ビデオ会議等)方式を組み合わせたハイブリッド形式での開催が明文で認められる一方、3年に1回は対面での開催が義務付けられることとなります(改正法案32条、34条による現行会社法96条、100条の改正)。また、改正法案は、所定の要件を満たす会社について監査人の選任義務を免除するとともに、一定の宣誓供述書による証明の要件を撤廃しています(改正法案44条、29条(c)による現行会社法139条(1)、68条(6)の改正)。さらに、取締役に付与される取締役識別番号(DIN)についても、定期的な本人確認情報の提出義務が新設され、これを怠った場合にはDINが無効化される可能性があります(改正法案51条による現行会社法154条の改正)。このほか、取締役に対する貸付規制の対象についても見直しが行われLLP(有限責任組合)も新たに規制対象に含まれることとなります(改正法案60条による現行会社法185条の改正)。






