(1)労働監督の手続に関する2026年労働大臣規則第11号
2026年7月3日、労働監督の手続に関する2026年労働大臣規則第11号(以下「本規則」という)が施行された。本規則は、従来の2016年労働大臣規則第33号及びその改正規則である2020年第1号を廃止し、労働監督官の権限、検査、違反への是正措置、賃金等の不足額認定、刑事事件の捜査、労働安全衛生(K3)の検査・試験手続等を規定する(本規則第4条~第9条、第13条、第55条)。
また、2026年10月12日施行の労働大臣規則第15号により、検査の実施主体、労働者の権利不足額の認定・再認定、K3証明書の発行手続等が改正された。企業は、監督官による立入検査への対応、関連資料の整備及び是正期限の管理に留意する必要がある。
以下、特段の記載がない限り、条文番号は本規則の条文を指す。
(2)本規則の概要
労働監督の目的は、企業や職場における労働関係法令・基準の遵守を確保することである。その役割は、①労働法令の執行、②使用者・管理者・労働者への指導、③労働関係や労働状況に関する情報の収集及び法令整備への活用である(第3条)。本規則は、監督の実施に当たり、透明性、説明責任、比例性、関係機関との協力等の原則を掲げる(第2条第2項)。
(3)労働監督官の権限
①事業所等への立入り
監督官は、使用者や管理者の同伴の有無にかかわらず、企業、職場又は業務が行われていると疑われる場所に立ち入ることができる。立入りを拒否された場合には警察の協力を求めることもできる(第4条a号、第7条第3項)。
②資料の提出要求・関係者からの聴取
監督官は、使用者、従業員、労働組合等の関係者を呼び出し、違反の疑いに関する情報、資料及び説明を求めることができる(第4条b号)。関係者には必要な情報等を口頭又は書面で提供する義務があり、聴取や資料の授受は所定の調書に記録し、関係者が署名する(第5条、第6条)。
③設備の封印・作業停止
監督官は、作業設備の運転を封印し、作業を禁止又は停止する等の措置を講じることができる(第7条1項)。労働安全衛生(K3)に関する検査・試験は設備、作業方法、作業者及び職場環境等を対象とし、労災発生時の特別検査では事故現場等を封鎖できる(第39条、第42条4項・5項)。
K3基準不適合により作業停止となった場合、適合証明書が発行されるまで作業を再開できないため、製造業等では機械設備の点検記録や事故対応手順の管理が重要である(第45条第4項~第6項)。
また、改正後は、企業の申請により州労働局長がK3証明書を発行する手続も定められた(改正後の本規則第46A条)。
④外国人を職場から退出させること・就労禁止
法令に適合しない形で雇用されている外国人について、監督官は職場等から退出させ、使用者に当該外国人の雇用を禁止できる(第7条第1項e号・第2項)。これは国外退去処分そのものを意味しない。日本人駐在員については、RPTKAの承認職位や就労場所と実態の整合性を確認しておくべきである。
⑤重大違反への直接的な司法的措置
労働監督は、予防的・教育的措置、非司法的措置、司法的措置に分類される(第8条)。しかし、死亡・一定の重大な障害を伴う労災、違法な児童労働、その他刑事罰の対象となる労働法令違反については、予防的・教育的措置及び非司法的措置を経ず、直接刑事法執行に向けた措置を講じることができる(第9条)。刑事事件の捜査は、捜査権限を付与された労働監督官(PPNS)が実施する(第47条)。
(4)検査と是正命令
①検査の種類
検査は初回検査、定期検査、特別検査及び再検査に分かれ、原則として従業員の勤務地を管轄する州労働局の監督官が、監督部門の責任者による命令書に基づき実施する(第17条、第18条)。定期検査は前回検査から最短3年経過後に実施され(第21条)、特別検査は従業員等からの通報、メディア報道、監督部門責任者の指示等により開始される(第22条)。検査期間は最長60労働日であり、オンラインでの事情聴取や書類確認も含まれる(第19条)。
②是正命令と期限
違反が確認されると、監督官は検査指摘書Ⅰ(Nota Pemeriksaan I)を発行し、是正内容と期限を示す(第26条第5項)。使用者は受領後最長30労働日の指定期限内に是正し、証拠資料を添えて報告しなければならない(第27条)。期限までに是正されない場合、監督官は期限経過後3労働日以内に検査指摘書Ⅱを発行し、受領後最長14労働日の期限を設定する(第28条)。再度未対応の場合は、刑事捜査や行政制裁に関する勧告等につながる(第29条)。
(5)残業代・最低賃金等の不足額認定
監督官は、残業代、最低賃金、労災・職業病に関する給付の不足額を算定・認定する。必要な資料や説明の提出を求める場合、各書面に最長5労働日の期限が定められ、3回の要求にも応じないときは、入手済み資料を基に認定できる(第30条、第31条第1項~第8項)。
2026年10月の改正後の条文では、不足額の認定は最長120日以内に行われ、企業は認定を受領してから14労働日以内に履行することとされている。不服がある場合には、認定受領後14労働日以内に理由を添えて再認定を申請できる(改正後の本規則第31条第11項、第33条第2項、第34条第1項・第3項)。勤怠記録、給与台帳、残業計算の根拠等を日常的に保管しておくことが重要である。
(6)自主点検と企業の対応
企業はSIAPkerja上で使用者側と労働者代表が電子チェックリストを記入する自主点検を行うことができる(第49条1項)。ただし、監督官による正式検査が免除されるわけではない(同条4項)。
企業は雇用契約書、就業規則、勤怠・賃金記録、BPJS、外国人就労関連書類及びK3関係資料を整理し、監督官からの要求に速やかに対応できる体制を整える必要がある。とりわけ指摘書を受領した場合には、日本人管理者も進捗を把握し、期限内に是正・報告を完了することが重要である(第5条、第27条~第29条)。






