【日本の独占禁止法(競争法)の概要 】

(1) 概要

「独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律、以下「独禁法」」は、昭和22年7月に施行され、これまで経済や産業構造などの変化に伴って強化・改正されてきました。同法は、私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業活動を盛んにし、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としています(独禁法第1条)。独占禁止法を運用するための行政機関として、公正取引委員会が設置されました(独禁法第27条)。

(2) 独占・寡占

1 私的独占の禁止(独禁法第3条、第2条第5項)

事業者が単独又は他の事業者と手を組み、不当な低価格販売、差別価格による販売などの手段を用いて、競争相手を市場から排除したり、新規参入者を妨害して市場を独占しようとする行為は「排除型私的独占」として禁止されています。また、有力な事業者が、株式の取得、役員の派遣などにより、他の事業者の事業活動に制約を与えて、市場を支配しようとすることも「支配型私的独占」として禁じられています。

また、寡占状態にある産業において、一部の事業者が特に大規模であるなどの理由で、競争が有効に機能していない場合、独占的な状態にあるとして、競争を回復するための措置が命じられることがあります。

(3) カルテル・入札談合

1 不当な取引制限の禁止(独禁法第3条、第2条第6項)

 事業者又は業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い、本来、各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決め、競争を制限する行為は「カルテル」として禁止されています。公共工事や物品の公共調達に関する入札の際、入札に参加する事業者たちが事前に相談して、受注事業者や受注金額などを決めてしまう「入札談合」も不当な取引制限のひとつとして禁止されています。

2 国際カルテルへの参加禁止(独禁法第6条)

国内の事業者がカルテルなどを内容として、海外の事業者と国際的協定を結ぶことは禁止されていま す。例えば、国内の事業者と海外の事業者の間でそれぞれの商品をお互いの国に輸出しないという市場 分割カルテルが行われた場合、競争を実質的に制限することになるため、違反行為となります。

3 事業者団体の活動規制(独禁法第8条、第2条第2項)

カルテルは、事業者団体の活動として行われる場合が少なくありません。例えば、事業者団体がその分野における事業者の数を制限して新規参入を認めなかったり、価格の引上げ・数量の制限、取引相手・販売地域の割当てを指示するなど、事業者の自主的な事業活動を不当に制限する行為は禁じられています。

(4) 不公正な取引方法(独禁法第19条、第2条第9項)

   「不公正な取引方法」とは、独禁法第2条第9項で定められる行為、及び同項第6号に基づく公正取引委員会の告示により指定される行為(以下、「一般指定」)をいいます。

1 取引拒絶(独禁法第2条第9項第1号、一般指定第1項、第2項)

 新規事業者の開業を妨害する目的などで、複数の事業者が共同で特定の事業者との取引を拒絶したり、第三者に特定の事業者との取引を拒絶させたりする行為は禁止されています。また、小売店に販売価格を指示して守らせるなど、事業者が単独で取引拒絶を行うような場合も違法となります。

2 差別対価・差別取扱い(独禁法第2条第9項第2号、同項第6号イ、一般指定第3項、第4項、第5項)

 取引先や販売地域によって、商品やサービスの対価に不当に著しい差をつけたり、その他の取引条件で差別することは禁じられています。例えば、有力な事業者が競争相手を排除する目的で、競争相手の取引先に対してのみ廉売をして顧客を奪ったり、競争相手と競合する地域でのみ過剰なダンピングを行ったりするような行為がこれに該当します。

3 不当廉売(独禁法第2条第9項第3号、同項第6号ロ、一般指定第6項)

 商品を不当に低い価格で、継続して販売し、他の事業者の事業活動を困難にさせることは禁じられています。ただし、公正な競争手段としての安売り、キズ物・季節商品等の処分等正当な理由がある場合は、違法とはなりません。

4 再販売価格の拘束(独禁法第2条第9項第4号)

 指定した価格で販売しない小売業者等に経済上の不利益を課したり、出荷を停止したりするなどして小売業者等に自社の商品を指定した価格で販売させることは、原則として禁止されています。また、指定した価格で販売することを小売業者等と合意して、自社の商品を指定した価格で販売させることも禁じられています。ただし、書籍、雑誌、新聞、音楽用CDなどの著作物については、例外となっています。

5 優越的地位の濫用(独禁法第2条第9項第5号、同項第6号ホ、一般指定第13項)

 取引上優越的地位にある事業者が、取引先に対して不当に不利益を与える行為は禁じられています。下請取引で問題が起きる場合が多く、独占禁止法の補完法の「下請法」(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)で規制されています。下請法は、下請代金の支払遅延や減額など、下請事業者に対する親事業者の不当な行為を規制しています。幅広い事業分野における親事業者の禁止行為を明確に定め、下請事業者を守る法律となっています。

6 抱き合わせ販売(一般指定第10項)

 商品やサービスを販売する際に、不当に他の商品やサービスを一緒に購入させる行為は、取引の強制に当たりますので禁止されています。

7 排他条件付取引(一般指定第11項)

 自社が供給する商品のみを取り扱うことを条件として取引を行うなどにより、不当に競争相手の取引の機会や流通経路を奪ったり、新規参入を妨げるおそれがある場合は、違法となります。

8 拘束条件付取引(独禁法第2条第9項第4号、同項第6号二、一般指定第12項)

 取引相手の事業活動を不当に拘束するような条件を付けての取引は禁止されています。販売地域や販売方法などを不当に拘束するような場合がこれに該当します。

9 競争者に対する取引妨害(独禁法第2条第9項第6号ヘ、一般指定第14項)

 事業活動に必要な契約の成立を阻止したり、契約不履行へと誘引する行為を行ったりするなどして、競争者の事業活動を不当に妨害することは禁じられています。

10 不当顧客誘引(独禁法第2条第9項第6号ハ、一般指定第8項、第9項)

 自社の商品・サービスを虚偽・誇大な表示や広告で不当に顧客を誘引したり、過大な景品を付けて商品を販売したりするようなことは、買い手の適切な商品選択を妨げるため禁止されています。

11 不当高価購入(一般指定第7項)

 競争相手を妨害することを目的に、競争相手が必要としている物品(原材料など)を市場価格を著しく上回る価格で購入し、入手困難にさせるような行為は禁じられています。

12 競争会社に対する内部干渉(一般指定第15項)

 ある事業者が、競合関係にある会社の株主や役員にその会社の不利益になる行為を行うよう不当に誘引したり、そそのかしたりするようなことは禁じられています。

(5) 届出・報告の義務

会社の株式取得、合併、分割、共同株式移転、事業の譲受けなどによって、競争が実質的に制限されることとなる場合、こうした企業結合は禁止されています(独禁法第9条第1項、第10条第1項、第15条第1項、第15条の2第1項、第15条の3第1項、第16条第1項)。この他、事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立、銀行及び保険会社による議決権保有の制限も規制されています(独禁法第11条第1項)。

 一定規模以上の会社が株式取得などにより企業結合を行う際、公正取引委員会に届出・報告をする必要があります(外国会社についても同様です。)株式取得・合併・分割・共同株式移転・事業等の譲受けの届出、一定の会社(一定の総資産を超える会社及びその子会社等)の事業報告・設立の届出が該当します(独禁法第10条第2項、第15条第2項、第15条の2第2項、第15条の3第2項、第16条第2項)。

(6) 公正取引委員会による措置

 独占禁止法に違反する行為が行われている疑いがある場合、公正取引委員会は、事業者への立入検査、事 情聴取などを行い、調査を実施します。調査の結果、違反行為が認められると、違反を行っていた事業者に対して排除措置を採るよう命じています(独禁法第7条第1項、同条第2項、第8条の2第1項ないし第3項、第17条の2第1項、同条第2項、第20条1項、同条第2項)。また、カルテルなどの悪質な行為については、課徴金や刑事罰などの厳しい措置が採られます(独禁法第7条の2、第20条の2ないし第20条の6)。

(7) その他ガイドライン

 公正取引委員会では、市場の規模や環境の変化に合わせ、各種ガイドライン等を取りまとめて公表しています。

1 フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン

独占禁止法では、取引の発注者が事業者である場合、下請法では、取引の発注者が資本金 1,000 万円超の法人の事業者である場合、相手方が個人の場合でも適用されることから、事業者とフリーランス全般との取引には独占禁止法や下請法を広く適用することが可能です。 他方、これらの法律の適用に加えて(又は代わって)、フリーランスとして業務を行っていても、実質的に発注事業者の指揮命令を受けて仕事に従事していると判断される場合など、現行法上 「雇用」に該当する場合には、労働関係法令が適用されます。同ガイドラインでは、フリーランスと取引を行う事業者が遵守すべき事項(報酬、発注、成果物の取扱い、取引条件等)、仲介事業者が遵守すべき事項、「雇用」に該当する場合の判断基準等について定められています。

2 スタートアップとの事業連携に関する指針

事業連携によるイノベーションを成功させるため、スタートアップと連携事業者との間であるべき契約の姿・考え方を示すことを目的としており、特にNDA(秘密保持契約)、PoC契約(技術検証)、共同研究契約及びライセンス契約の4つの契約において生じる問題事例とその事例に対する独占禁止法上の考え方を整理するとともに、それらの具体的改善の方向として、 問題の背景及び解決の方向性を示したものです。