(1) 不動産法制度
メキシコにおける不動産の概念や売買、登記などの原則は連邦民法(Código Civil Federal)に規定されており、本稿ではその概略をご紹介します。なお、細目については州によって異なる場合もありえますので、ご留意ください。
1 不動産の考え方
日本においては建物と土地は別の不動産とされていますが、メキシコにおいては、建物は土地の一部とされています。そのため、基本的には、土地の所有者が、土地上の建物の所有者になります。
ただし、建物の一部を住戸ごとに購入することも可能です。つまり、登記(Registro Público de la Propiedad: RPP)された土地上の建物を区分ごとに分割することができ、このような分割も登記が可能となります。この建物の一区分の所有者は、他の区分の所有者の同意を要せずに、所有する区分を譲渡や担保に供することができます。
2 不動産取得手続の概要
不動産取得に際し売買契約を締結する際には、公証人に売買契約公正証書の作成を依頼し、その公正証書に署名後、その謄本をもって登記を行うこととなります。なお、取得金額がUMA日額(Unidad de Medida y Actualización、2021年度の日額は89.62ペソ)の365倍の額より小さい場合は、登記を省略することも可能です。なお、不動産登記簿はその不動産の所在地を管轄する登記所において第三者も閲覧可能です。閲覧の際は、その不動産の住所もしくは区画や街区、地籍コードもしくは以前の登録証(謄本または原本)などが必要となります。
また、後述のとおり、外国人がメキシコの土地を取得しようとする場合は、事前に外務省から許可を受ける必要があります。
(2) 不動産取得にあたっての外資規制
憲法(Constitución Política de los Estados Unidos Mexicanos)および外国投資法(Ley de Inversión Extranjera)によって、外国人や外国資本の企業による不動産取得に制限が設けられています。
1 所有権取得
メキシコにおいては、外国人は、(a)その財産に関してメキシコ国民と同等の扱いを受けること、(b)(a)に関して自国政府の保護を求めないこと、(c)これに違反した場合には当該権利等をメキシコ国に没収されることに同意することや、(d)外務省の許可を得ることを条件に、土地の所有権を取得することができます。また、法人の場合には、(a)乃至(c)を定款に含めることが求められます。
ただし、国境から100キロメートル、海岸から50キロメートルの範囲の制限区域内においては、外国人は土地を直接所有することができません。
なお、メキシコで設立されたメキシコ法人であっても、外国人排除条項(直接もしくは間接的にパートナーもしくは株主として外国人もしくは外国資本が参入する法人を受け入れないとする条項)を有せず、上記(a)乃至(c)の条項のみを有する法人の場合は、制限区域外の土地のほか、制限区域内の土地については居住以外の目的でのみ取得は可能となりますが、購入後60営業日以内に外務省に届出を行わなければなりません。
2 信託(Fideicomiso)
前述の通り、制限区域内の土地の所有については制限があるものの、所有以外の方法で使用・収益する権利を取得することは可能です。具体的には、Fideicomisoという信託形式によって、制限区域内の土地の使用収益権を取得する方法であり、外国人排除条項のないメキシコ法人あるいは外国人または外国法人が受益者、銀行が受託者となり、銀行が制限区域内に所在する不動産の管理を受託することになります。
この信託により、使用、賃貸などの収益、抵当に充てるなどの処分、相続や贈与も可能となります。信託期間は最大50年とされていますが、更新をすることも可能です。