【日本の遺言に関する法制度の概要 】

遺言制度は、遺言者の生前の最終意思を尊重してその効力を認めるもので、生前にいつでも遺言を撤回し(民法第1022条)変更することができ、遺言者の死亡によって効力が生じます(民法第985条第1項)。

遺言の法的効力が認められる事項は、1 相続に関する事項(相続分の指定又は指定の委託(民法第902条)、遺産分割方法の指定又は委託(民法第908条前段)、推定相続人の廃除(民法第893条)とその取り消し(民法第894条))、2 財産処分に関する事項(包括遺贈及び特定遺贈(民法第964条)等)、3 身分に関する事項(認知(民法第781条1項2項)、未成年後見人(民法第839条)・未成年後見監督人の指定(民法第848条))、4 遺言執行に関する事項(遺言執行者の指定又はその委託(民法第1006条第1項)、特定財産の遺言執行に関する特別の定め(民法第1014条))などが挙げられ、主に民法によって定められています。

(1) 遺言書の種類及び作成要件

1 普通方式

(a) 自筆証書遺言

 遺言者が相続財産について、作成日付及び氏名を自書し押印する、簡単な方式の遺言です。一方で、方式の不備により無効となるおそれや紛失の可能性などがあります。作成要件は以下の通りです。

  • 遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない(民法第968条第1項)。ただし、自筆証書に一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合、遺言者は、その目録の毎葉に署名し、印を押さなければならない(同条第2項)。
  • 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない(同条第3項)。

(b) 公正証書遺言

 公証人が内容を含めて作成に携わり、公証人役場で遺言を保管しますので、安全な作成方法と言えます。作成要件は以下の通りです。

  • 証人2人以上の立会いがあること(民法第969条第1号)
  • 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること(第2号)
  • 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ又は閲覧させること(第3号)
  • 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる(第4号)
  • 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと(第5号)

(c) 秘密証書遺言

公証人や証人の前に封印した遺言書を提出し、その内容を秘密にして遺言書を保管することができる方式の遺言です。作成要件は以下の通りです。

  • 遺言者がその証書に署名し押印すること(民法第970条第1項第1号)
  • 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印象をもってこれに封印すること(同項第2号)
  • 遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること(同項第3号)
  • 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、押印すること(同項第4号)

2 特別方式

遺言の特別方式として、死亡の危急に迫った者の遺言(民法第976条)、伝染病隔離者の遺言(民法第977条)、在船者の遺言(民法978条)、船舶遭難者の遺言(民法第979条)が定められており、証人の立会いをもって遺言書を作成することができます。

(2) 遺言の執行

1 遺言の検認手続き

遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければなりません、遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様です(民法第1004条第1項)。ただし、公正証書による遺言については、適用しません(同条第2項)。

2 遺言執行者

 遺言者は、遺言で、1人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に寄託することができます(民法第1006条第1項)。遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、選任することができます(民法第1010条)。遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有すると定められています(民法第1012条第1項)。