【タイの遺言に関する法制度の概要 】

(1) 遺言の種類

タイの法律によると、遺言書には5つのタイプがあります。主に使用されているのは「普通遺言」です(タイ民商法典1656条)。その他の種類の遺言は、以下のとおりです。

  1. 「自筆証書遺言」(1657条):遺言者が自筆で遺言書を作成しなければなりません
  2. 「公正証書遺言」(1658条):遺言者が公証人の面前で遺言内容を口述し、公証人が作成します
  3. 「秘密証書遺言」(1660条):遺言者が遺言を封印し、遺言の内容を秘密にして保管することができます
  4. 「特別な方式の遺言」(1663条):伝染病や戦争など特別な状況下にある場合に行うことができます
  5. 自筆証書遺言は、遺言書について証言する証人がいない可能性が高く、遺言書に記載されている署名や筆跡が裁判所の専門家によって100%真正で正確であることが確認できないため、遺言書の真正性・正確性を理由に他の当事者から異議を申し立てられることがあるため注意が必要となります。

(2) 普通遺言の作成方法

普通遺言は、次のような内容で作成しなければなりません(1656条)。

  1. 遺言書の作成された年月日
  2. 遺言者が死亡した場合の財産の分配方法等についての意思表示
  3. 二人以上の証人による遺言書への署名
  4. 遺言者のために遺言書を書く/タイプする者は、遺言書に署名することが必要(1671条)

これらに従わない場合、遺言書は無効となります(1705条)。

タイの裁判所は、判例上、この要件を非常に重視していると思われます。遺言者が1人の証人の立会いのもとで遺言書に署名し、もう1人の証人はその5分程度後に立会った事案があります。この事案では、2人目の証人は遺言者が署名した瞬間には立ち会っていなかったため、当該遺言書は無効であると判断された判例があります。

(3) 注意点

  1. 遺言書を書いたり、タイプしたり、証人として遺言書に署名した者は、遺言書に記載された財産を受け取ることができません(1653条)。
  2. 遺言者が複数の遺言書を作成した場合で、両方の遺言書の記載内容が異なる場合には、古い方の遺言書は、最新の遺言書によって撤回されたものとみなされます(1697条)。

受遺者が遺言者より先に死亡した場合(1698条)、遺言書に記載された財産が遺言者の死亡前に他人に譲渡された場合(1696条)など、何らかの理由で遺言書のいずれかの条項が無効となった場合、当該財産は、遺言書が存在しなかったかものとして、相続人に相続されます(その割合は法律に記載されている通りとなります。1699条)。